はやくきみにおいつくために


授業が終わり、部活があるやつ以外、帰宅部と引退した3年生たちが昇降口に集まる。俺もその1人だ。
とはいっても俺は2年生だから引退してカリカリ勉強しているわけでもなく、ただだらだらと帰宅部として過ごしている。
今日も特にやることもなく家に帰ってだらだらとしようと昇降口へ行くと、なぜかいつもより人が多い。
その理由は、昼すぎ頃からしんしんと静かに降り続ける、

「あー、雪か…」






都会ではあまり降らないだろうし、降っても積もったりはしないだろうけど、田舎は違う。
降り出したらとことん降り続け気付いたら歩けないほど積もっていた、なんてザラだ。
そしてここはそのご多分に漏れず田舎だ。しかも学生の溜まり場なんて決して近くないコンビニか世界的にチェーン展開しているファストフード店くらい。それくらい、田舎なのだ。
今はまだあまり積もってはいないが、明日の朝には膝くらいまで積もっているんじゃないだろうか。
朝はすっきりと晴れていたから傘を持っている奴は少ないだろう。そして、そういう奴らがここで立ち往生しているようだった。
俺はというと、朝アレルヤから傘を押し付けられたのでばっちり持っている。今日ばかりはアレルヤに感謝しなければ。
マフラーをしっかりと巻きなおし、全開にしていたブレザーのボタンを全て留めた。あまり意味はないだろうけど、まあ、気持ちの問題だ。
人ごみを掻き分けどこにでもあるようなワンタッチ式のビニール傘を広げ、そのまま雪の中へと歩き出した。






「うわっ靴染みてくる…最悪」

歩道のない道を歩いているので、雪を溶かすために出ている水が容赦なくローファーに染み込んできた。気温も相まって感覚がなくなるくらい足が冷える。
それでもあまりの寒さにがちがちと震えながら歩いているので歩くスピードは上がらない。早く歩く気力がないのだ。
しかも時たま歩行者がいると理解しているとは思えないスピードで車が横を通っていき、そのときに跳ね上げられた水やぐちょぐちょの雪が制服のズボンにかかってどんどんと体温を奪っていった。
スリップでもしてしまえ、と呪いをかけつつ車を睨むが、それもだんだんと空しくなってきたのでやめた。
とりあえず早く家に帰ろう。そして風呂に入ってこたつで寝てしまいたい。そう思い少し歩を速めた、とき。

「うわっちょっどいて!」

後ろからそう声が聞こえ、なんだと振り向いた瞬間、
自転車が目の前まで迫っていた。

「うおっ!?」

間一髪で自転車を避け、自転車の主も転倒は免れた。

「てめ、危ねえだろうが!」

さすがにこれは怒る権利はある、と思いとりあえず怒鳴った。そこで初めて相手の顔をみたのだが、

「うわ、ごめんなさい!ちょっとよそ見してたら…ってあれ?ハレルヤ?」

そこにいたのは、隣に住む生意気な中学生だった。






「いや、悪かった!ついよそ見してたらさ!」
「それはさっきも聞いた。つーかてめえ俺だとわかった途端これかよ!謝る気ねえだろ!」

俺たちはそこから一緒に帰っていた。ニールは傘を持っていなかったので自転車を押しつつ俺の傘の半分を占領している。
傘差し運転は校則で禁じられているらしい。それはわかるけど、「合羽着ればいいだろ」と言ったら「だってだせえだろ」とだけ返された。ずぶ濡れの方がださくないか?

「いやいやあるって!申し訳ありませんでしたハレルヤ様!是非その寛大なお心でお慈悲を!」

そう笑いながら言うもんだから、怒気もだんだんと萎えてきた。これも作戦か?はあ、と一つため息をつく。俺たちの中で「もう許した」の合図だ。

「そういえばお前、受験生だろ?勉強してんのか?」

そう、ニールは今3年生なのだ。しかも今は1月。受験生にとっては大事な時期と言える。

「してるって。今日も家帰ったら勉強だからな…」

そう言うと、ニールは重いため息をついた。まあ、勉強漬けというのはストレスしか溜まらないからな。しょうがない。

「でもお前なら普通にやってりゃいけるだろ」
「いけねえって!俺はハレルヤと同じ高校に行きたいんだから!」

……は?

「いや、ここ進学校だし。流石のお前でも…」
「だから勉強してんじゃねえか。ハレルヤと一緒に通いたいから頑張ってるんだから応援してくれよ!」

それをまず俺に言わないでどうする。勝手に決めやがって。まあ、嫌ではないけど。

「ふーん。まあせいぜい頑張れよ」
「それ応援じゃない!」

わあわあと騒ぐニールを無視して歩き続ける。1人で騒いでいても空しいだけだろうから、すぐ治まるだろう。
案の定、すぐにニールはぱたりと騒ぐのをやめた。ふと見ると、目に見えてむくれていて、そういうところは変わらないなと思った。
変わったのは…身長か。そういえば背、伸びたな。こいつ。

「ニール」
「…」
「おい、ニール」
「……」
「ニールさーん」

傘を持ち替え、空いた方の手でニールの腕をぺしぺしと軽く叩くと、ようやっと反応して、ちら、とこちらを見た。

「…なんですか」
「なんだよまだむくれてんのかよ。悪かったって」
「むくれてませんー」

笑ってしまいそうなのをどうにか堪えて「わかったわかった」と言うと、まだ納得していないのか軽く睨んできたが、にやっと笑ってやるとため息をついて笑い返された。

「それで、何だったんだ?」
「あ?」
「さっき呼んだじゃねえか」

苦笑しながら言われてやっと思い出した。いやまあ、すっかり忘れていた。

「ああ、ニールって今身長どれくらいなんだ?」
「え?ああ、えーと、最近計ってないからわかんねえけど、前は184だった」
「げ」
「何」
「あんまり変わんねえじゃねえか」
「ハレルヤは?」
「185」

苦虫を噛み潰したような表情でそう言うと、ニールは嬉しそうに笑った。くそ、2歳も年上なのに。

「ハレルヤを超える日も近いかな」
「させるか馬鹿」

そう言い合っているうちにいつの間にか家までたどり着いていた。1人の時は長く感じた道のりが、こいつと一緒だとあっという間だ。
手前にある俺の家の前で立ち止まる。

「じゃあな、まあ、せいぜい頑張れよ受験生」
「う、絶対一緒の高校行ってやるからな!」

こいつが一緒だったらさぞ楽しい高校生活になるだろう。前みたいに、アレルヤとニールと俺の3人で。
だから、ちょっと慈悲を見せてやることにした。既に歩き出していたニールの背中に声を掛ける。

「しょうがねえから、また今度勉強教えてやるよ」

そう言うと、ニールが思い切り振り返った。その顔は驚きで彩られている。

「え、マジ!?」
「おう。その代わり落ちたら承知しねえ」

にやり、と自信たっぷりに笑ってやると、ニールは今までにないほど嬉しそうに笑って「おう!」と返した。






待ってるぜ、ニール。
俺の最後の1年を今まで以上に彩ってくれるのを。


end.







ニルハレなのかもうわからないものになってしまいました。
とりあえず念頭にニル→ハレを置いたのですが…よくわからない。
年の差が好きだということに今日気付きました。いいですね、年の差!








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