かわらないもの
2人はすでにできてます
「うわーやっぱすげえなあいつ」
俺の目に映るのは身軽にトラックや車から逃げていく、2年ぶりに姿を見る仲間だった。
生身で機械の速度から逃げていく姿はやはり超兵のすごさを窺えた。人間である自分とはえらく違う。
そのまま傍観していると、逃げた先からヘリが迫るのが見えた。さすがにあれをかわすのは無理だろうと思い、助けるべく射撃体勢をとった。
「よし、いくか。デュナメス、ロックオン・ストラトス。狙い撃つぜ!」
まずはヘリを撃ち落とし、次に下にひしめき合っているトラックなどを次々と撃っていく。
最後の1台を撃ち終わると、そのまま機体を仲間の元へと向けた。
コックピットハッチを開け、どこか悟ったような表情のアレルヤに、こう告げた。
「悪いな、休暇は終わりだそうだ」
ひととおり挨拶は終えたらしいアレルヤに声をかけると、2年前と変わらない笑顔を向けてくれた。
「さっきはありがとう。正直僕らだけではどうにもならなかったと思う」
「いいって。手遅れにならなくてよかったぜ」
手をひらひらと振りながら答えるとアレルヤはもう1度「ありがとう」と言った。
「そういえば、さっき逃げてたのはハレルヤの方か?」
「え?ああ、うん。脳量子派に反応するからって」
やっぱりか。いまいち確信はなかったけどアレルヤにしては大胆だと思っていた。
礼を言い、そのまま立ち去ろうとすると今度はアレルヤが引き止めてきた。
「あの、ハレルヤに代わりましょうか?」
「え?」
「いや、だって、僕がここを離れていたせいで2年間会えなかったじゃないか。2人は恋人なのに」
少し申し訳なさそうに放たれた言葉に納得がいった。アレルヤは自分だけ恋人と一緒にいることが申し訳なかったのか。
そりゃあ俺だってハレルヤと離れ離れでいるのは寂しかったけど、それがアレルヤとハレルヤの考えなら仕方がない。そう思い納得していたのだ。
でもまあ、やっぱり寂しかったけど。
「それじゃあ、悪いが少しだけ、いいか?」
「構いませんよ」
アレルヤはにっこりと笑って答えた。うーん、やっぱりマリーちゃんが選ぶのもわかるな。優しくて穏やかで。でも強い面もある。俺が女なら惚れてるなあ。
「おい、なに考えてるんだよおっさん」
いつの間にかハレルヤに代わっていたようで、軽く足を蹴られた。いってえ。
「おっさんじゃねえっての」
「おっさんじゃねえか。31歳って」
ぐ、と詰まる。そりゃあ三十路は越えちまったが中身はまだまだ若くいたい。というかこの年でおっさんって言われてたまるか。
なんとかしてこの生意気な恋人に一矢報いたい俺は、思いついた作戦に、にやり、と顔を歪めた。
そして何も言わずハレルヤの片腕を引っ張り、よろけたところで腰を抱き寄せ耳に顔を寄せた。
「久しぶりに会った恋人にそれはひでえんじゃねえの?ん?」
低く囁くように言うと、みるみるうちに耳が真っ赤になった。これに弱いのはずっと変わらねえな。
「……っ」
思い切り突き飛ばされ少しよろけたけど、にやにやとした笑みは崩さずにハレルヤを見る。
ハレルヤは真っ赤な顔をして悔しそうにこっちを見ていた。それに一層笑みが濃くなった。
「ハレルヤはいつまで経っても可愛いな」
「かわっ…!?う、うるせえ死ね!」
うん、口の悪さも変わってねえな。まあ照れ隠しなのは一目瞭然だけど。
それでもにやにやと笑い続ける俺にむかついたのか思いっきり頭を叩かれた。痛いけどこれも照れ隠しだと思えば、うん、痛くない。はずだ。涙なんて出ていないさ。
そのままハレルヤが踵を返す。そのとき、ふわっと流れた後ろ髪を、気付けば俺は思い切り掴んでいたわけで。
それに気付かなかったハレルヤはそのまま進もうとしたわけで。
「ぐおっ!?」
まあ自然の摂理でハレルヤの体がのけぞった。そこでようやっと髪を掴んでいることに気付いた俺は「あ」とだけ言い髪を離した。
「てんめえ…」
ハレルヤが髪を触りつつ真っ赤な顔でこっちを見た。よっぽど今の間抜けさが恥ずかしかったんだろう。
可愛いなあとかぼんやりと思ってる、俺の方が間抜けだった。
「へ?」
気付けばハレルヤに胸倉を掴まれていて。目の前にはハレルヤ。
「てめえ1回死ね!」
今度こそ頬にとてつもない衝撃を受けた俺は、そのまま意識を失った。
気付くと、俺はどこかのベッドに寝かされていた。
「…ん?ここどこだ?」
「気付いたかよおっさん」
声のした方を向くと、ハレルヤが椅子に座っていた。あ、ここもしかしてアレルヤの部屋か?
「うー、頬っぺた痛え」
まだじんじんするんだけど。どんだけ思いっきり殴ったんだよ。
「はは、悪かったって」
こいつ絶対悪いと思ってねえ!笑いながら謝る奴があるか!
「ていうかてめえが髪掴むのがいけねえんだろ」
「あーまあ…なんかふわふわしてるのが気になって。切らねえの?」
「あー…そろそろ切るかな。ガンダムに乗るときにもうぜえし」
「えっじゃあさ、じゃあさ、俺切っていい?」
そう言うと、ハレルヤはいかにも嫌そうな顔をした。失礼すぎる。
「ええ…なんか怖えからやだ」
「失礼だな!兄さんほどとは言わねえけど手先は器用な方だぜ?」
「…失敗したら殺す」
「!まかせとけって!」
シャキシャキ、と鋏で切る音だけが空間を占める。
あれからハレルヤは大人しく髪を切られていた。
「髪型は?」と聞いたら「前と同じ」とだけ言われた。もうちょっと変えてみようぜって言ったら「殺すぞ」とだけ言われたので黙った。
ハレルヤの髪は変な癖がついているらしく、前にやった髪は緩やかなウェーブを描いているのに後ろはぴょんと跳ねる。
最初はわざとそうしているのかと思ったけどそうではないらしく、段々切っていくにつれて後ろ髪だけ跳ねていっている。ちょっと切りにくい。
「ハレルヤの髪って変わってるよな」
「あんまり好きじゃないけどな。ライルの髪が羨ましい」
そんな風に思われてたのか。でも俺だって癖っ毛なんだけどな。
「そうか?俺は好きだけどな。はいできた」
ぽん、と頭を軽く叩くと、ハレルヤは「さんきゅ」とだけ言ってきた。頭を軽く触っているのは、髪形を確かめているみたいだ。
「どうよ、俺の腕前」
「んー、悪くねえんじゃねえの」
素直じゃねえなあ。たまには素直なところも見てみたい。
切った髪を片付けてからベッドに座っているハレルヤを優しく押し倒した。
「なにしてんだてめえ」
「いやー、まあ、お礼?」
へら、と笑いマウントポジションをとる俺をハレルヤは「ふざけんな」とだけ返して体を押された。
でもそれで諦める俺じゃあない。それを堪えて体をより近づける。
「ライルッ」
俺が本気であることに気付いたのか、焦ったような声色で咎められた。
「まあまだ時間あるって。大丈夫大丈夫」
「ちょ、大丈夫じゃねえ!」
そのうるさい口を塞いでしまおうと顔を近づけ、今まさにキスする、という瞬間、
『これから作戦会議を行うので、マイスターは全員ブリーフィングルームに集合するように』
というミススメラギの声が放送された。
ぴた、と行動を止めた俺からずるずるとハレルヤが這い出るのも止められなかった。
「ええ…今このタイミング…」
「変なことしようとしやがった罰だ!ほら行くぞ!」
ハレルヤに急かされ、俺はすごすごとブリーフィングルームへ向かった。
全部終わったら絶対にお礼を貰おう、と心に決めながら。
end.
映画ネタにしたはいいもののあまり覚えてない!
とりあえず髪を切るライルが書きたかったんです。
ハレルヤのスタントシーンはすごくかっこよかったですね!あれすごく好きです!
映像も綺麗だったのですごくよかったです
…なんでライルはこう積極的になってくれるかなあ…
あとライルがマリーのことをなんて呼んでるかわからなかったです。とりあえずマリーちゃんにした。