もう1度、ふたりで


みんな大学生


俺たちはずっと一緒だった。
それはもう、小学1年のときに隣にあいつらが引っ越してきてから、ずっと。
あいつらも双子で、俺たちも双子で。そんな奇妙な縁があってか親同士もすぐに仲が良くなった。
俺たちも意気投合して、ずっと一緒に遊んでた。基本的に、俺とライルが馬鹿をやり、アレルヤとニールが止めるという組み合わせだった。
大学も4人で同じ大学に進んで、学部は違うものの時間が合えば一緒にいたりした。
だが、それも少しの間だった。
ライルに彼女ができて、アレルヤもまた、中学で知り合ったマリーと付き合って。俺たちと過ごす時間がだんだんと減っていった。
残された俺とニールも、はじめは残された者同士馴れ合っていたのだが、学部の違いで少しずつ少しずつすれ違っていった。正直、中学のときからニールに友愛とは違う好意を抱いていた俺は、それが辛かった。
そんな折、大学内で久しぶりにライルに会った。もちろん隣には彼女が居たが。

「よう、ハレルヤ。久しぶりじゃねえか」
「おう、そうだな。そっち彼女か?お前にはもったいねえな」

そう言うと、ライルには微笑みながら文句を言われ、彼女には「冗談がお上手ですね」と言われた。
聞くと、名前はアニューというらしい。同じ学部で知り合ったのだそうだ。正直に、お似合いだと思った。

「ていうかハレルヤ、お前もそろそろ彼女見つけろよ。中学のときからことごとく告白断り続けやがって」

そんなことを言われても、好きな奴がいるんだからしょうがない。そんなことを言えるわけもないので、適当にはぐらかしたけど。
曖昧に答えていると、ライルから衝撃的な言葉が放たれた。

「俺たちの中で彼女いねえのハレルヤだけなんだからさ」
「え?」

表情が固まる。だって、ニールに彼女はいなかったはずだ。なのに、この言葉。と、いうことは。

「知らなかったのか?兄さんも最近彼女できたんだぜ」

それから、気付いたら1人で家まで戻ってきていた。電車にも乗ったはずなのに、全く覚えていない。
それほど、ライルから放たれた言葉は衝撃的だった。






その後、帰ってきたアレルヤから聞いた話によるとニールの彼女はフェルトというらしい。大人しく可愛らしい子だと。
なんだよ、ニールの好みにぴったりじゃねえか。お似合いにもほどがある。
そう思って、ひたすらに自分の感情を押し殺して、封じた。
もう、二度と開くことのないように。






「ハレルヤ!」

それからしばらくの日が経ったある日、講義が終わって帰ろうと歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、ニールが1人の女子と一緒に歩いてきた。厳重に鍵を掛けて封じた思いが、少しずつ滲み出す。

「なんだよ」

わざと睨んでぶっきらぼうに返す。滲み出した気持ちを押し込めるように。
睨んだからか、隣の女子が怯えた表情をする。悪いが、それを気遣うほどの余裕は俺にはない。
こうしていないと、気持ちが爆発してしまいそうなんだ。

「なに怖い顔してんだよ」
「用はなんだって聞いてんだよ」

表情を崩さずに聞き返すと、ニールはあからさまなため息をついた。なんだよ、俺が悪いのか?
全部俺が悪いってのかよ。俺が今泣きそうなのを隠してるのも、俺が悪いのか?こんな感情を持ってしまった、俺が悪いっていうのかよ。

「別に用はねえよ。久しぶりに会った友達に声を掛けるのは当たり前だろう?」
「そうかよ。それはそうだな。じゃあもう声掛けたから用はないよな。じゃあな」
「え、あ、おい、ハレルヤ!」

矢継ぎ早に言葉を繰り出し振り返って歩き出すと、ニールの焦ったような声が聞こえた。それでも歩みは止めなかった。
あれが、噂の彼女なんだろう。正直もう見ていたくない。こうやって会話できただけでも褒めてもらいたいほどだ。
なんだ、俺、気持ちなんて封じたつもりだったのに、全然じゃねえか。2人を見るだけでも、全然泣きそうじゃねえか。
くそ、と自分自身に吐き捨てた。






そのとき、がし、と腕を掴まれた。周りが見えてなかった俺はびっくりして振り返った。目の前にはニールがいた。

「何してんだよハレルヤ!死ぬ気か馬鹿!」

そう怒鳴られるもんだから何かと思ったら、すぐそこを車が横切った。どうやら、赤信号の横断歩道に突っ込もうとしていたらしい。ニールに止められなかったら死んでいたと思うと今更ながらぞっとした。

「あ、わ、悪い。気付いてなかった」
「気付いてなかったって、お前…」

ニールが深くため息をついた。呆れているんだろう。

「お前、彼女は」
「ん?彼女?」
「あのさっき一緒にいた、ピンクの髪の子だよ。フェルトだっけ」
「ああ、フェルトか。さっき話してた場所で別れたけど、それがどうかしたか?」

どうかしたかって、彼女なのにそんな扱いでいいのかよ。
それをそのまま言うと、ニールは「は?」と言った。なんだよ、は?って。
それから、ふ、と軽く笑うと俺の肩に手を置いた。

「これから帰るんだろ?一緒に、いいか?」

正直、一緒に帰りたくなんてなかった。俺がどれだけ必死に気持ちを押し殺しているか、こいつはわかってない。
だからそんな軽く、言えるんだ。

「俺、これから寄るとこあるから」
「いいから、ほら、行くぞ」
「ちょ、おい!」

断ったことを気にもせずに俺の腕を掴み駅まで歩いていく。

「ふざけんな!離せ!」
「別に用もないのに嘘言ってんじゃねえよ」

冷たい声でそう放たれる。体が竦み、それ以上何も言えなくなった。

「…わかったから、わかったから手を離してくれ」
「断る。離したらお前、逃げるだろ」
「逃げねえから…っ」

必死に言うと、渋々ながら手を放してくれた。掴まれていた部分がじんじんと痛む。
なんだよ。なんで、こいつ、こんなに怒ってるんだ?

「なんだよ…なんなんだよ…っ」

もうニールのことが何もわからない。こんなこと初めてだった。
ニールが何を考えているのかも、わからない。何で今、こいつはこんなに怒っているのかも。何もわからない。

「なんなんだよお前!さっきから一方的に…俺を振り回して楽しいかよ…!」

止めたい。こんなこと言いたくなんてない。頭では止めようと必死なのに、口は止まってくれない。

「彼女まで放って、俺にいちいち干渉してきやがって!もううんざりなんだよ!俺に、もう、関わらないでくれ…!」

目の奥が熱い。視界が滲みそうになるのを必死で堪える。
自分のことで必死だった俺は、ニールが今どんな顔をして俺を見ているのか、気付かなかった。

「ハレルヤ!」

思い切り肩を掴まれる。容赦のない力に顔を顰める。でも力は緩まなかった。

「お前こそ、お前こそ俺の気持ちも知らねえで勝手言いやがって!俺がどれだけお前のこと…っ」
「なんの、ことだよ…!」
「いつもいつも、お前の方が俺のこと振り回してんじゃねえか…!お前とライルが一緒にいるところ見るたび、俺は、」

なんだ、これ。なにかがおかしい。というか、なんか、俺とニールで確実に何かがずれてる。

「ちょ、ちょっと待て!何がなんだか全く、」

俺の制止も聞かずにニールは俺をいきなり抱きしめた。おい、人通りが少ないとはいえここは外だぞ。誰が来るかわからないっていうのに。
その前に、なんで俺はニールに抱きしめられているんだ?
混乱しているのに、頭のどこかでは冷静に捉えていて、わけがわからなくなる。

「俺もわかんねえよ。お前のことも。俺が自分でなにしてるのかもよくわかってねえよ。でも、これだけはわかる」

抱きしめる力が一層強まる。衣服越しに、ニールの心臓の音を感じた。

「好きだ」
「え、」
「好きなんだ、ハレルヤ。お前のこと」

なんだ、それ。え?どういうことだ?だって、そうだ、ニールには。
俺はありったけの力を籠めてニールを突き飛ばした。俺もニールも、よろけながら離れる。

「な、んだよ。どうしたんだよ。ハレルヤ」
「お前こそ、なんなんだよ。俺のこと、好きって?は、好きってなんだよ。彼女がいる奴に、告白されて、どうしろって?」

笑おうとしても、乾いた笑いしか浮かべられない。ああ、だめだ。また、熱い。泣きそうだ。

「ハレルヤ」

いつの間に近づいてきたのか、ニールがまた俺を抱きしめる。今度は、優しく。

「お前、勘違いしてる」
「え?」
「フェルトのこと。あの子は彼女じゃないよ」

は?じゃあニールは誰と付き合ってるんだ?
そのまま言うと、ニールは苦笑しながら「なんでそうなるんだよ」と言った。

「俺は誰とも付き合ってないよ。ハレルヤと付き合えたら嬉しいけどな」

瞬間、俺はニールの告白は、本当にニールの気持ちだったのだと理解した。視界が滲むのを、今度は抑えられなかった。
泣いているのを見られたくなくて、顔をニールの肩にうずめた。そのまま嗚咽を殺していると、ニールの暖かな手が頭を撫でた。






「でさ、どうなんだ?」
「は?」

ようやく涙が治まったところで、ニールにそう問われた。

「だって、ハレルヤ泣くばっかりでまだ答え貰ってないし」
「な、泣いてねえ!」

そう怒鳴ると、「はいはい」とだけ言われた。くそ、なんだかむかつく。

「それで、どうなんだよ」
「う」

俺の気持ちは大体わかっているのだろう、にやにやと笑いながら顔を覗き込まれる。

「わ、わかってんだろてめえ!」
「えー?なんのことだかさっぱりだな」

こいつ絶対わかってやってるじゃねえか!
だけど、言わないといけないだろうっていうのは俺も同じだ。でもこうもわかられていると言うのも癪だ。だけど、だけど…。

「ニール!」
「おうっ!?」

いきなりでかい声で呼んだことに驚いたのか、ニールがびくっとした。
そのニールの襟元を掴んで思い切りこっちに引き寄せる。
その勢いでニールの耳元に口を寄せ、小さく小さく「俺も好きだ」と呟いた。
突き放そうとすると、またニールに抱きしめられた。3回目だな、これ。

「ハレルヤ、好きだ。好きだ。俺と一緒にいてくれ」
「…おう」

今までと違ったのは、おずおずとニールの背中に、俺の腕がまわったこと。






その後、アレルヤを問い詰めると、ライルに協力してほしいと頼まれ嘘をついたということだった。
ライルは、俺とニール、どちらの気持ちにも気付いていて、でも何もしない俺たちに焦れていたらしい。だから偶然俺に会ったときに咄嗟に嘘をついたそうだ。
フェルトという子もライルから協力を仰がれていたらしく、相談があると称してニールと一緒にいたらしい。後で謝られたので、怒っていない旨を伝えておいた。ライルは殴っておいた。
ライルに対しても怒っているわけではない。迷惑かけやがって、という意味で1発殴ったのだ。まあ原因は俺とニールだけどよ。結果うまくいったことに対しては、感謝もしている。

「ハレルヤ!帰ろうぜ!」
「おう」

結局、今こうして俺たちが一緒にいるのも、ライルのお陰なのだから。
内心ライルに感謝しながら、俺は、俺を呼ぶ恋人の元へ向かった。


end.







紆余曲折しながら完成いたしました…!
1番文章消して書いてしました。
1回ニル→←ハレ←ライになったんですけど、長くなりすぎてやめました。
ここまで読んでいただいた方ありがとうございました!








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