09.作戦会議とてのひらのぬくもり


「ハレルヤ、お前何か知ってるんだろう」

ライルに激しく叱責される。周りを見ても、全員が俺を厳しい目つきで見ている。なんだよ、俺が悪いみたいじゃねえか。
今、生徒会のメンバーと顧問が俺とアレルヤの部屋に集合していた。なんで俺たちの部屋なのかは、よくわからないけど。
もちろん議題はさっきの花瓶のことだ。
体育祭まで猶予があるなら次の生徒会のときでもいいと思ってたけど、想定外だ。
もう隠す理由もない、というか元々隠すつもりもないので、俺はグラハムに言われたことを話すことにした。






「そう…それで油断していたところに、ということね」
「ああ」

顧問であるスメラギの言葉に同意する。

「それにしても本当に危ないところだったみたいだね。ハレルヤ、本当に怪我とかないんだよね?」
「大丈夫だってさっきから言ってるだろ」

アレルヤは本当に心配性だ。さっきから何回この問答をしたことか。そろそろ飽きてきた。
ふう、と軽くため息をつくとニールに見られた。なんだ、俺何かしたか?

「ハレルヤもライルも落とした奴の姿は見てないのか?」
「見てねえ。見てたら真っ先に言うだろ」
「俺も見てないな」

あのときは本当にびっくりして、そんな暇なんてなかった。ライルも同じなのだろう。
すると今までだんまりを決め込んでいたティエリアが口を開いた。

「君に個人的な恨みでもあるんじゃないか?ハレルヤ・ハプティズム」
「なっ…」

ティエリアの言葉に全員が絶句する。が、俺だけは表情を変えなかった。それを見たティエリアが「やはりな」と言う。

「そんなことあるわけねえだろ。俺たち全員ならわかるが、ハレルヤだけが恨まれる理由がない」

ニールの言葉にみんなが同調する。ティエリアだけが俺を厳しい目つきで見ていた。俺から話せ、ということなのだろう。

「庇ってくれてるところ悪いが、ティエリアの言うことは本当だ」

今度は俺を見て絶句する番だった。

「やはりそうか。生徒会を解体させるだけならこんなことをする必要はないからな」
「ちょ、ちょっと待てよ!なんでハレルヤが狙われなきゃいけないんだ!」

ライルが声を荒げる。それに応えたのはティエリアだった。

「まだ隠していることがあるだろう。ハレルヤ・ハプティズム。全て話してもらおう」

そう、俺はグラハムの話したことを全て伝えてはいなかった。心配されたくもないし、話す必要もなかったから。
全く、ティエリアに隠し事はできないか。こいつは鋭すぎるんだ。
ひとつため息をつくと、今度こそグラハムに言われたことを全て話すことにした。






「ハレルヤ、何でそれを言わなかったの?」

スメラギが今までにない厳しい口調で責める。なんかみんなさっきより目つきが怖いんだけど。やっぱり言わない方がよかった。
言ったことを少し後悔して顔を顰めていると、いつになく厳しい表情のアレルヤから呼ばれる。

「スメラギ先生の質問に答えて、ハレルヤ。どうして言わなかったんだい」

何かアレルヤが怖い。

「それはよ…別に、言う必要なかったし」
「そんなわけねえだろうが」

ニールにすぐさま否定される。他のみんなも同じ気持ちなのだろう、一様に頷いていた。

「ハレルヤ、あなたは勘違いしてるわ」

スメラギの両手が俺の両手を包む。恥ずかしいからやめてほしいのに、離してはくれない。

「…なにを、だよ」
「私たちのこと、よ」

スメラギの目を直視できなくて、視線を下げる。

「あなたが一人でそれを抱え込んで、私たちが何も思わないと思った?もしあなたに何かあったときに、私たちが悲しまないと思った?」
「それは…」

思わない。みんな、心配してくれるのは、わかっていた。けど、巻き込みたくはなかった。
こうやって自分が狙われているのなら、余計に。

「もう1人で抱え込もうとしない事。わかった?」
「…わかったよ」

多分それは無理だろうけど。この性分は治らない。スメラギもそれをわかっているのか、軽くため息をついて手を離した。

「もう、本当にわかってるのかしら」
「わーかってるって」

そのとき、ズボンのポケットが震える。ポケットから携帯を取り出すと、メールが1件届いていた。何気なくそれを見ると、

「……!」

動揺を隠せずに目を泳がせる。周りも俺の動揺に気付いたようで、こちらを窺うような視線を感じた。
震える手で携帯を閉じ、少し目を伏せる。よし。
目を開き、全員に向き直る。

「みんな、俺に協力してくれるか」
「なにがあった?」

刹那に尋ねられる。お前今日初めてしゃべったな。まあ、それはいいとして。

「犯人から直々に呼び出しだ。明日昼休みに屋上に来いってよ」
「なに!?」
「俺に作戦がある。協力しろ、お前ら」

そう言ってにやりと笑うと、みんな少し驚きながらも安心したように頷いた。






「それで、話ってなんですか、先輩」

翌日の屋上。俺は言われたとおり一人で屋上に来ていた。
暖かい窓際の席のため授業中はブレザーを脱いでカーディガンを羽織っていたのだが、屋上となると風が少し冷たい。ブレザーを着てくればよかったと少し後悔した。

「言われなくてもわかってんだろ」
「まあな」

いきなり不遜な態度になった俺に先輩は眉を顰める。悪いがもう敬意を払うつもりはない。

「てことは、お前、いや、お前らが、犯人ってわけだ。いるんだろ、全員出てこいよ」

そういうと、建物の影から3人が出てきた。予想通り、犯人は、
前代生徒会役員たちだった。

「それで、今俺をここに呼び出して、どうしようってんだ?」
「現生徒会を解体して、会長をヨハンに戻せ」

そう言ったのは元副会長だ。

「それを言って、俺がはいそうですかって了承すると思ったのか?」
「思ってはないさ、だが、お前にとって今の生徒会メンバーは大切な奴なんだろう?」

それだけで言わんとしていることはわかった。

「アレルヤたちを人質にとるってか」
「お前が生徒会を解体したら、なにもしないさ」
「しない、と言ったら?」
「少し痛い目を見てもらうだろうな」

完全に優位に立っていると思っているのだろう、勝ち誇ったように笑んだ。全く、馬鹿な奴らだ。
俺が何も対策せずにのこのことここに来たと、本気で思っているのだろうか。

「お前ら、なんでこんなことを」

わざと悲しそうに吐き捨てると、そいつらはより傲慢に嘲う。

「お前にわかるか?いきなり会長の独断だけで生徒会を降ろされた俺たちの気持ちが」
「別にそこまで生徒会に執着してなかったろうが」
「ああそうだ。だがな、2年に生徒会をしているというのに3年でしていない。それが内申にどう響くか、お前もわかるだろう?」

つまり、内申だけ見ると2年で問題を起こしたから3年では生徒会を降ろされた。そういう風に見えるのが嫌だったということだろう。そんな、それだけの理由で。俺はあんな危ない目にあったわけだ。
溢れ出した怒りを必死で抑えて、笑う。作戦のためだ。普段ならもう殴ってるが、自分でもよく頑張っていると思う。
くつくつと笑い出す俺を不審に思ったのか、「何がおかしい」と言われる。ここまでだな。
元副会長たちに背を向け、屋上にある建物の屋根に向かって声を上げた。

「ニール、ライル!ちゃんと撮れてるだろうな!」
「おう、ばっちりだぜ!」

いきなり聞こえた声に他の奴らがぎょっとした。まさか俺以外に生徒会がいるとは思わなかったのだろう。ざまあみろ。

「ここで話したこと全部録画させてもらった。これを教員方に提出させてもらう」
「なっ…」

ニールの言葉に絶句するのが見えた。ふう、これで終わりだな。

「まあ、すでにミススメラギに来てもらってるからもうその時点で終わりだけどな、あんたら」
「え、」

ライルの言葉に驚いたのは俺だった。スメラギには来いとは言ってねえぞ。
ニールとライルが居る場所からスメラギが出てきてそのまま仁王立ちする。

「貴方たち、このまま教務室まで来てもらえるかしら」

もう逃れられない。そう悟ったのか座り込んでうなだれていた。






「意外に早く解決したな」

連行されていく先輩たちを見ていると、いつの間に上から降りてきたのか、ライルが話しかけてきた。後ろにはニールもいる。

「まあ、昨日の今日だしな。向こうから連絡がなかったらもうしばらく続いただろうけどよ」
「それにしても、ハレルヤ」
「なんだよ、ニール」
「俺たちしか呼ばなかったのはハレルヤなりの気遣いか?」

そう、ここには俺とニールとライルしかいない。まあスメラギは予想外だったけど。ここにはアレルヤと刹那とティエリアがいないのだ。

「まあ、な。素直に引き下がってくれたからよかったものの、どうなるかなんて俺にもわからなかったからな」

アレルヤを危ない目にあわせるわけにはいかないし、刹那とティエリアはまだ1年ということを考えてだった。

「よくアレルヤが許したな。ハレルヤが1番危ない目にあうのに」

う、いいところを突くなニールは。そう、この作戦を言った後散々アレルヤに渋られた。理由はもちろん、ハレルヤを危ない目にあわせたくない、だった。
元々俺が呼ばれてるんだから俺が行かないと意味がない、しつこく、それはもうしつこく諭してようやく納得してもらったのだ。渋々だったけど。
はは、と曖昧に笑うとニールもライルも察したのか苦笑いを返された。

「まあ、俺たちも心配してたからさ。無事でよかったよ、ハレルヤ」
「あ?大丈夫だっての。俺は喧嘩慣れしてんだから」
「それでも3対1は大丈夫じゃないだろ」
「俺様舐めてんじゃねえよニールさんよ。3人でも余裕だっての」

にやり、と笑い言うとニールは苦笑しながら「そうですか…」と言って引き下がった。

「ほら、早く昼飯食わねえと!昼休み終わっちまうぞ!」
「うわっちょ、落ちる!落ちるって!」

ニールとライルそれぞれの手を掴み階段を早足で下りた。
肩の荷が降りたことで、少なからず開放感を感じた。







無理やり終わらせました!
次から体育祭ですがんばるぞー!
体育祭の競技を考え中です。考えるの楽しい!けどどういうのが一般的なのかわからない!










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