08.勘違いと不穏な忠告


『放課後に昨日と同じ場所で』

授業が始まる寸前、自然な様子で俺に近寄ってきたグラハムがそう耳打ちした。
昨日と同じ場所、というのは資料室のことだろう。しばらく近寄りたくなかったのに。
というかあいつに近寄られただけで昨日を思い出して鳥肌が立つ。軽く身震いして席についた。
ライルがじっとこっちを睨んでいることは、最後まで気付かなかった。






「ハレルヤ、帰ろう」

授業が終わって、アレルヤにそう声をかけられた。そういえば今日は生徒会もない日だったか。せっかくの休みが…。

「悪い、ちょっと用事があるから先帰っててくれ」

そう言うと、アレルヤやニールに何の用事か問われたが適当にはぐらかした。
みんなと別れて教務室へ向かう。楽しそうな話し声が憎い。俺もああやって帰るはずだったのに!

「失礼しまーす…」

おずおずとドアを開けるとすぐそこにグラハムがいた。待ってたのかこいつは。

「ああ来たか。待ってたよじゃあ行こうか」

マジで待ってたよこいつ。バカか。
心の中で悪態をつきながら表面上では素直に従って資料室へ向かった。
資料室は相変わらず薄暗い。昨日のこともあってその薄暗さがより重く感じた。

「それで、今日は何ですか」

あくまでしれっとした態度で臨む。ここで怯えてもしょうがない。

「今日は少し、君に話しておきたいことがあってな」

そう言ってちらと俺の後ろを見る。俺の後ろにはドアがあるから、誰もいないかの確認だろう。ということは誰にも聞かれたくない話なのか。
できるだけ離れていたグラハムとの距離を縮める。声を潜めて話すためだ。グラハムと人一人分の距離を開けて立つ。グラハムもその意図に気付いたのか、にやりと笑った。

「わかっているじゃないか」
「まあな」
「では早速本題へ入ろう」

途端真面目な顔つきになる。俺もつられて頬を引き締めた。

「最近不穏な動きがある」
「は?」

なんというか、曖昧すぎる。誰がどんな動きをしているんだ。

「3年生の一部の者だ。まだ動きはないが、おそらく体育祭で…」
「いや待て、ちょっと待て」

さっきからついタメ口になっているがもうそんなことはどうでもいい。はっきり言って、わけがわからない。

「なんだ?」
「曖昧すぎる。何のことだ。何を言っている?」
「ふむ、まずはそこからか。君は去年から生徒会に不満を持っている生徒たちのことは知っているだろう?」
「はあ?」

なんだそれは。そりゃあ俺の代には居るとは思っていたがはっきり聞いたことはないし、去年に関しては居たことも知らない。

「む?まさか知らないのか?…全く、前代の生徒会長は君に甘いな」
「…なんのことだ」

内心ひどく動揺していたけどできるだけ出さないよう努める。少し声は震えていたけど。

「まず生徒会に入りたい者は大勢いる。行事もある程度自由にできるし、なにより進路に大きく響く。なのにメンバーに選ばれたのは、素行の悪い新1年生だった」

なんだ、それ。

「他の生徒会役員たちもその1年生に甘く、しかも今年、その彼は生徒会長になった。メンバーも親しいもので集められた」

なんだよ、それ。

「自分たちは見向きもされず、下級生たちに好き勝手される上級生の気持ちを、君は考えたことがあるか?」
「そんなの…っ」

知らなかった、気付きもしなかった。少し考えればわかることなのに。

「知らなかったでは済まされないぞ。もう、時が経ちすぎた」
「…なにが、あるっていうんだ」

俯き低い声で尋ねる俺に、グラハムは「ふむ」と言い続きを言い放った。

「先日小声で話していたのを聞いただけなのだが、体育祭でなにかをすると。そしてそれは、生徒会役員の地位を脅かすものだと。簡潔に言えば、君たちを生徒会から引き摺り下ろすつもりらしい」

ここまでくれば、もうそういうことなのだろうとわかってはいた。いたけど。やっぱり、少しショックだった。

「…なんでこのことを俺に」
「私は教師だ。ならば道を誤ろうとしている生徒を正すのが役目だろう。だがこれは私がでしゃばる問題ではないようだ。だから、当事者で会長である君に話した」

そういえばこいつ教師だったか。そんな失礼なことを考えながらも、グラハムに対する警戒はほとんどなくなっていた。

「本当は昨日このことも話そうと思っていたのだがな」
「じゃあなんであんなことしやがった」
「君があまりにも可愛く感じたからだな。ああ安心したまえ。私の本命はあの少年だからな」
「刹那も大変だな。こんな変態に付きまとわれて」

くく、と笑っているとグラハムが顔を寄せてきた。まるで、昨日の続きとでもいうように。

「もちろん、君のことも気に入っている。君さえよければ、昨日の続きでもするのだがな」
「ふっざけ…っ」

そこまで言うと、グラハムは元からそうするつもりだったのか、するりと離れていった。

「まあ、それは彼が許してくれないようだがな」

そう言うとドアの方へ視線を向けた。つられてそちらを見ると、ライルが立っていた。なんだこれ。昨日の続きと言うか、昨日のやり直しじゃねえか。

「心配していたようだな。いい友をもった」

そうなのだろうか。まあ、そうなのか。

「話は終わったからもう帰っていい」
「そうか、まあ、ありがとな」

さすがにこの件に関しては礼を言わなければならない。グラハムはふっと笑み「礼を言われることではない」と言った。いつもこんななら女生徒にも人気が出るだろうに。






「先生と何話してたんだよ」

寮までの道を歩きながら、ライルが不機嫌そうに聞いてくる。

「別に、なんでもねえよ」

そう言うともっと不機嫌になった。でも、正直話すのが面倒だ。

「今度の生徒会んときに話すから」

そう言うと、ライルは不承不承ながら頷いた。

「ハレルヤ」
「なんだよ」

ライルの方を見ると、ライルもこっちをじっと見ていた。目は真剣そのもの。何の話かと気を張っていると、

「今度あいつに呼ばれたときは俺もついていくからな!一人で行くんじゃねえぞ!」
「はあ?」

なんだそりゃあ。少しでも真剣になった俺が馬鹿みたいだ。あれ、そういえば。

「そういえばなんでてめえあそこにいたんだよ」
「えっ」

急にライルの目が泳ぎだす。

「おい、ライル」
「だ、だって昨日あんなんだったから心配でさ!朝先生がハレルヤに話してるの聞いちまったからまた襲われてないかと…」
「お、襲われてねえ!」
「襲われてただろ!あんなに迫られて!今日だって」
「あああもうでかい声で言うなあああああ!!!」

誰がいるかもわかんねえのにでかい声で話すな!今度はグラハムと噂になるなんて御免だからな!
するとライルが急に笑い出した。な、なんなんだこいついきなり。

「は、ハレルヤ必死すぎ…!かわいいなお前」
「はっ!?か、かわいくねえよ!」
「ほら、そういうところがかわいいんだって」

くすくすと笑われる。ああもう、なんだよこいつといいグラハムといい人のことをかわいいかわいい言いやがって。うれしくねえ!
むかついてずんずんとライルを置いて早歩きで進む。「おい、待てよー」という声が聞こえるけど無視だ。
そのとき、チカッと何かが目の端で光って目が眩んだ。その正体を確かめようと上を見ると、

「ハレルヤっ!」

急にライルに引っ張られる。思い切り引っ張ったのか軽く首が絞まった。
なにすんだライル。そう言うために後ろを向こうとして、

ガシャン。

目の前に花瓶が落ちてきた。
え、と言う暇もなくライルに腕を引っ張られる。

「ハレルヤ!大丈夫か!」
「あ、ああ…大丈夫だ」

まさか、これって。







話がどんどん逸れていきます
本当はこの次から体育祭だったのに…
ストーカーライルさん。グラハム先生はわざと「いい友」と言いました。
このままくっつくのは許さん!的な感じで^^
まあハレルヤはそれにすら全く気付いてないですけど!ライルはばっちり気付いてます。グラハム先生敵視してます。










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