07.宿題と解決策
「ニール、ちょっと話あっから残れ」
生徒会の仕事もほとんど終わり、全員が帰る用意をしていた時。
俺もいそいそと帰る準備をしていたのだけど、ハレルヤに呼ばれ昨日に引き続き残ることになった。
「じゃあ、先帰ってるね」
「2人でごゆっくり」
アレルヤには「おお」と返しライルは睨んでおいた。なんでこいつはこう嫌味ったらしいんだ。
ほら、刹那とティエリアも意味ありげに見てるじゃねえか!やめてくれ!あんな噂を信じるな!
そんな俺の願いも届かず2人は無言で去っていった。
「何してんだよ、ほら、座れ」
「…お前さ、何も気にしてねえの?」
「何が」
何がって…。
「噂だよ。俺とハレルヤが付き合ってるっていうさ」
「だからその噂について話し合うんだろうが。お前このままだとアレルヤと付き合うどころじゃねえぞ」
あ、ハレルヤもちゃんと考えてるのか。でも、この状態って。
「この状態からあの噂が始まったのにさ、またこうやってたら誤解されないか?」
「あーもうそのへんは何やったって一緒だからよ」
どうせここで話そうが俺かお前の部屋行こうが一緒だ、というハレルヤ。まあ、確かにそうだよな。今更どうしようもない、か。
「でさ、お前はあの噂、どうしたらいいと思うよ」
「へ?」
いきなりそんなこと言われても。どうしたらいいんだ?
「てめえ何も考えてねえのかよ」
「…ごめんなさい」
呆れた、というようにため息をつかれた。でも本当にどうしたらいいのかわからない。
「おめぇよ、俺も嫌だけどお前の方がやべぇんだからしっかりしろよ」
「え、なんで俺の方がやばいんだ?」
「はぁ!?」
ハレルヤの態度に萎縮してしまう。全くアレルヤと同じ顔でも全然違う。
「お前…アレルヤと付き合いたいんじゃねえのかよ」
「え、あっ。そっか」
まさに今気付いた。そんな声を出したら思いっきり頭をはたかれた。いってぇ…。
「だ・か・ら!とりあえずこの誤解を解かねえと俺も協力できねえんだよ!どうにかしろ!」
「どうにかって言われてもなあ…」
「とりあえず暫く離れてたらいいんだろうが…」
「えっ!それは嫌だ!」
ハレルヤとは去年からだけどそれでも他の奴よりずっと仲がいいんだ。なのにこんな噂でしゃべれなくなるのは嫌だ!
「俺だって嫌だっての。それにどうせ同じ生徒会なんだから無理だろうが」
あ、そうか。そうだよな。うん。よかった。
「だからなんか考えろって言ってんだよ」
「えー?うーん…」
結局その日はいい考えが浮かばず、ハレルヤに「ちゃんと考えとけ」と言われた。宿題か…。
次の日の朝、いつも通り4人で教室に向かっていると、昨日以上の視線に晒された。え、なんかしたっけ?
そのまま教室に入るとすごい勢いでミレイナが向かってきた。
「ハプティズムさんハプティズムさん!これは一体どういうことなんですかーっ!」
勢いの矛先はハレルヤだ。そのハレルヤはというと、いきなりのことに目を白黒させている。
「み、ミレイナ。ちょっと落ち着けって。何があったんだ?」
とりあえず助け舟を出してやった。ミレイナは少し落ち着いたらしく、携帯を取り出して1つの画像を見せてくれた。
「へっ」
そこには廊下でいちゃついている?ハレルヤと…俺?じゃねえや、これライルか。
それをハレルヤにも見せると心当たりがあるのだろう、目を見開いて固まった。
「それが昨日の夕方から出回っているのです。ミレイナもメールで回ってきたのですよ」
ミレイナが説明しだす。そのときもハレルヤは画像を見たまま固まっていた。ミレイナの説明はちゃんと聞こえているのだろうか。
「みんなハプティズムさんが二股してるって噂してます。だから本人から違うって言ってもらいたくて、ミレイナはずっと待ってたのです」
なんて健気!当人じゃないミレイナがここまで考えてくれているなんて!アレルヤがいなかったら惚れていそうだ。
でも俺から説明しようにも何も言えない。俺はこの画像のことを知らないからだ。ライルも、この画像のことしか知らない。
つまり、弁解できるのはハレルヤだけ。いまここで固まっている、だ。
俺も、ハレルヤも、何も言わない。それをみんな沈黙の肯定だと思ったのか、ざわめき始める。そのとき、
「あーこの写真ね。これは本当だぜ」
今まで沈黙を守っていたライルがいきなり口を開いた。何を言うつもりなんだろう。みんなの注目がライルに集中する。
「では、ハプティズムさんは本当に二股をしているということですか?」
「ん?いや、それは嘘。ハレルヤは兄さんと付き合ってねえよ」
おもむろにハレルヤの肩を掴むと自分の方に引き寄せた。クラスどころか廊下からもどよめきが聞こえた。
「だって俺と付き合ってるし。な?ハレルヤ」
「へっ」
間抜けな声を出したのはハレルヤだ。今の今までどうしようか考えていたんだろう、何も聞いていないようだった。
「ほ、ほんとですかハプティズムさん!」
「うえ?な、何がだよ」
「本当にライルさんと付き合っているのですか!?」
「はぁっ!?」
ハレルヤ、顔真っ赤だぞ。それじゃあマジで勘違いされるぞ。
やっとハレルヤは自分の置かれている状況に気付いたのだろう。肩をライルに抱かれているのに気付いてギョっとしていた。ライルは…ご満悦そうだ。あながち嫌でもないってか。
あ、やばい、ハレルヤが拳握ってる。まずい、ライルに教えるべきなんだろうけど…まあ、いいか。とりあえずアレルヤに目で合図をする。離れとけ、と。
アレルヤはそれに気付いて軽く頷くと2人で少し後ろに下がった。
「そうだぜ。昨日もハレルヤが可愛くってなぁ。なっ、ハレルヤ?」
ライルお前、もうそれ以上しゃべらないほうがいいぞ。自分の身を案じろ。
「…ぇ」
「へ?」
ああ、タイムオーバー。ご愁傷様我が弟よ。
「ごちゃごちゃと嘘ばっか言ってんじゃねえ!」
「ごふっ」
うわあ、これはまた綺麗なアッパー。
「へ?嘘なのですか?」
「嘘に決まってんだろ!俺はニールともライルとも付き合ってねえ!」
ハレルヤの叫びでみんな固まっている。最初に動きを取り戻したのはミレイナだった。
「えっと、ではではこの写真は一体…?」
「それはっ…」
今度はハレルヤが固まった。やっぱり昨日何かあったんだろうが、言うつもりはないらしい。
「ハレルヤが幽霊が出たって怯えるから慰めてたんだよ」
アッパーされてからずっと無言だったライルがそう言った。ハレルヤが何か言おうとしたが、ライルに何か言われるとそのまま黙り込んだ。
「ハプティズムさんはお化けが苦手なんですね!」
「そうなんだよー困るよなー」
ライルの機転?のおかげでなんとか話は纏まったらしい。これで何かと噂されることもないだろうと思うとほっとした。
「何をしている、授業の始まる時間だぞ」
そういえば1限は数学だったっけか。みんなわたわたと自分の席に戻っていった。
おもむろに教師がハレルヤに近づき何かを話していたが、俺は自分のことに精一杯で気にしていられなかった。
だから、そのとき、ハレルヤが強張ったのも、ライルが険しい表情をしたのも気付かなかった。
とりあえず無理やり終わらせました。
あれ?ニールが、がんばっ…いやもうニールまだまだ頑張れないみたいです。
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