愛情と少しの下心


今日は朝からいつも以上にご機嫌で、つい鼻歌も歌ってしまうほどだった。その都度ライルに「気持ち悪い」と言われていたけど。しょうがないだろ。
だって久しぶりにハレルヤとのデートなんだぜ。そりゃあ鼻歌も歌いたくなるさ。
今までお互いテストやらレポートやらで全然会う暇がなかったからな。1回家に押しかけてやろうかと思ったけど迷惑になるからやめた。
メールも電話もあまりしていない。というか、まずメールや電話はあまりしない。お互い不精なのだ。
だから本当にハレルヤの声もずっと聞いてなくてやっぱり寂しかった。だから、久しぶりのデートに心が躍るのもしょうがない。
そのとき、俺の携帯からお気に入りの曲のメロディが流れ始めた。あまり鳴ることがない、ハレルヤ専用に設定した曲だ。
なんだなんだ、寝坊でもしたのか?とか思いつつ携帯を開き新着メールを開いた。

「え、」

表情が硬直したのがわかった。ライルが不審そうにこっちを見ている。
ハレルヤから届いた久しぶりのメールには、

『悪い、風邪引いたから今日行けない。ごめん』

と書かれていた。
しばらくがっくりとうなだれていたけどライルの「お見舞い行ってくれば?」という言葉を聞いてジャケットをひっつかんで飛び出した。
すぐに財布を忘れたことに気がついてすごすごと家に戻るとライルに大笑いされた。






コンビニに寄ってスポーツドリンクとかゼリーとかとりあえずよさそうなものを買ってからハレルヤの家に向かった。
何を買えばいいか迷ってしまい、家につく頃には昼前になっていた。
チャイムを鳴らすと、ガチャ、という音がしたあと『どちらさまですか?』という声が聞こえた。これはアレルヤのものだ。
腰を屈めチャイムに備え付けられているカメラに顔が映るようにして、「よう、ハレルヤいるか?」と言うと、『あ、ニール。ちょっと待って』と言った後音声が切れた。
すぐにぱたぱたと小走りで玄関まで近づいてくる音が聞こえ、がちゃりとドアが開く。

「よ、久しぶり」
「本当に。今日はハレルヤのお見舞い?」

アレルヤはエプロンをしていた。なにか料理をしていたんだろう。

「そう。ハレルヤ、どうだ?」
「熱がひどいんだ。今おかゆ作ったところ」
「そっか…」

熱がひどいってことは寝かせておいた方がいいだろう。何も考えずに来たけど部屋には上がらずに帰ったほうがいいかもしれない。
そんな俺の心情を悟ったのだろう、アレルヤが家に入るように言ってくれた。

「いやでも、邪魔だろ?俺帰るよ」
「大丈夫だよ。僕これから大学行かなきゃ行けないんだ。どうしようかと思ってたけど
ニールがいるなら安心できるし」

それだけ言うと、テキパキと準備して「おかゆ持っていってね。熱いから気をつけて。じゃあ、よろしくね」と言って出て行ってしまった。
ここまでくると帰るわけにもいかず、おかゆが置いてあるであろう台所へ移動した。
台所には、おかゆと薬、あとスポーツドリンクや果物の場所と『ハレルヤのことよろしくね。あと梅干は絶対食べさせてね』とだけ書いたメモが置いてあった。これいつ書いたんだろう。
とりあえずおかゆ持って行こう。ハレルヤびっくりするかな。久しぶりに会えることもあってちょっとわくわくしながら部屋に向かった。






「なにしにきたんだよ」

開口一番それですか。ドアを開け「昼飯だぞー」と言った瞬間掠れた声でそう言われた。

「お前が風邪引いたって言うから心配して来たんだよ。大丈夫か?」
「だいじょうぶだったらねてねえよ…」
「ですよね。ほら、昼飯」

ベッドの横にある机におかゆを置き、その隣に座り鍋の蓋を開ける。湯気とともになんとも美味しそうな匂いが漂った。
ごくごく一般的な卵粥の真ん中に梅干が置いてある。それを鍋の中でくずしてやると、ハレルヤが「うげ」と言った。

「なんで梅干があんだよ」
「俺が作ったんじゃねえよ。それにアレルヤが梅干は絶対食べさせろって」

そういえばハレルヤは梅干とか苦手だったけな。なんで食べさせるのかは知らないけど。
そう思っているのを見越してか、ハレルヤが理由をぽつぽつと話し始めた。

「うちでは風邪引いたら絶対梅干入り粥食べさせられんだよ。口がすっきりするからって」

それで嫌いなもん食べさせられる俺の気持ちも考えろってんだ。そう言いながらもしっかり梅干も食べるんだから、かわいいんだ。こいつは。
ちなみに俺が食わせてやってる。ごくごく自然な流れで。熱のせいか何も言わずに食べるハレルヤに理性が揺らぎそうになるが病人だから、病人だから、と言い聞かせてなんとか抑えた。






「半分も食えなかったな」
「んー…」
「…熱は?」
「…ない?」
「なんで疑問系なんだよ。ほら、体温計」

渡してやると、素直に脇に差し入れた。そのまま暫く無言の時間が過ぎる。
ピピピ、という音がしたのでハレルヤが取る前に取ってやった。熱がひどかったらこいつ絶対隠すからな。

「おいおい…」

体温計には39.0と示されていた。いくらなんでも高すぎる。

「とりあえず水分とれ、あと寝てろ」
「だいじょうぶだっての」

呂律がまわってない時点で大丈夫じゃないだろう。

「大丈夫じゃないっての」
「んー…」

病人を前にしてなんだが、俺も大丈夫じゃない。ハレルヤがかわいすぎてどうしたらいいのかわからない。
熱のせいか赤く染まった頬、潤んだ瞳、いつもより素直な態度。これで熱がなかったら即いただきますと言っていただろう。まあ熱がなかったらこうはならないけど。

「…?どうした?にーる」

今の完全にひらがな呼びだった!やめてくれハレルヤ!俺の理性をこれ以上削るな!

「い、いやなんでもない!ほらスポーツドリンク買ってきたから飲めって!そんで寝ろ!」

ハレルヤにペットボトルを押し付けると素直に飲み始めた。それからベッドに寝転ぶと、すぐにまどろみ始める。

「ゆっくり寝ろよ。俺、昼飯片付けてくるから」

そう言って立ち上がろうとすると、ゆるい力で袖を掴まれた。言うまでもなく、ハレルヤに。

「ど、どうした?ハレルヤ」

慌てて伺うとハレルヤは今にも目を閉じそうだ。何か聞こえたけど小さすぎて聞こえない。

「なんだ?もう1回言ってくれ」
「…ここに、いろよ」
「え?」

それだけ言うと目を閉じてしまった。規則正しい、とは言っても少し早く浅い寝息が聞こえてくる。どうやら寝たようだった。
袖を掴まれたまま。
ゆるい力で掴まれたそれを話すのは容易いことだけど、それをするのは躊躇われた。そのままがっくりと項垂れる。
これはなんという生殺し状態なのだろう。涙が出てくる。
1回、2回と深呼吸をして、ハレルヤを見遣る。寝ていても辛そうで、出来れば代わってやりたかった。
袖を掴んでいる指をゆっくりと離し、しっかりと手を掴み、汗で張り付いた髪を払ってやった。いつもは力強い金の瞳も瞼に伏せられてその色が見えなかった。
髪を払ったせいで露になった額に軽く唇を落とす。
すぐに離すと、ハレルヤの髪をゆっくりと、何度も撫でる。

「おやすみ、ハレルヤ」

そう言い、今度は唇に軽くキスをした。


end.




甘いよおお
やっと甘いのが書けたよおお








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