それはまるで魔法のようで

恋は青春番外編
ライ→ハレ、ニル→アレになる経緯


ライルの場合

それは中3の秋のことだった。
俺はいつもどおり、学校が終わり家へと帰るときだった。
部活も引退し、今は受験生として勉強に勤しむ時期、なのだが、どうもやる気が出ずにぶらぶらと回り道をしているところだった。
そう遠くないところから喧騒が聞こえる。どうやら喧嘩のようだ。
こんな河川敷で喧嘩だなんて、いつの時代の不良だよ。
そう笑いながら、少しだけ気になってその喧騒の方向へ向かうことにした。
それが、俺の恋のはじまり。






おぉ、やってるやってる。
ざっと見たところ、3〜4人対10人超といったところか。こんなの始まる前から決まったようなもんだろ。
その中で、一際目立ったやつを見つけた。いや、見た目は他のやつに比べると普通なんだけど。
緑がかった黒髪の後ろだけをはねさせ、右目を隠すように伸ばされた前髪。
そいつが気になった理由は見た目ではない。そいつがばったんばったんと他のやつをなぎ倒していったからだ。
遠目に見てそこまで高くない身長、大人しそうな外見。そんなやつが楽しそうに笑いながら誰よりも動いてどんどん相手の数を減らしている。
なによりも驚いたのは、そいつが少ないほうの1人で、そいつの働きで大人数の方があきらかに劣勢となっていたことだった。
そんなギャップにやられたのかはわからない。けど、俺は無性にそいつと話したくなった。
そんなことを考えている間に終わったようだ。もちろん、そいつの居るほうが勝っていた。
勝ったとはいえ、やはり相手が多すぎたのかそいつらも怪我をしていたり制服がよれよれになったりしていた。
これから帰るのか、河川敷から俺のいる堤防に上がってくる。すると、そいつの連れの青髪がずんずんと俺に近づいてきた。

「お前ずっと見てたよな。何か用か」

そう思いっきり睨みながら言ってきた。やっぱりこういう奴は睨みにも迫力があるな。ちょっとたじろいでしまった。

「や、別に。野次馬根性ってやつ?」

別に間違ったことは言ってない。というか、100%それだ。
そう言ってもまだ睨んでくる。見てただけなのに何がいけなかったんだろうか。

「どうした、ミハエル」
「ああ、ハレルヤ。なんかこいつが見てたからさ」

来た。あいつだ。さっきの黒髪の。ハレルヤっていうのか。

「ふうん」

すげえおれじろじろ見られてるんだけど。どうしたらいいんだろう。

「…別に見てるくらいならいいんじゃねえの。喧嘩売ってるってわけじゃないみてえだし」

ハレルヤがそう言うと、青髪は「ハレルヤが言うなら別にいいけどさ」と渋々身を引いた。
やばい、これはそのままさようならしそうな雰囲気だ。別にそれでもいいだろうに、俺はなぜか焦燥感を覚えた。

「あのさ」

その言葉に2人がこちらを見る。だが、ハレルヤの金の瞳に見つめられると二の句がつげなくなってしまった。というか、元々何を言うかも考えてすらいない。

「なんだよ」

ハレルヤが怪訝な表情をする。やばい。俺今相当変な奴だ。なにか言わないと。

「お、俺と友達にならねえ?」

何を言ってんだ俺は!ほらもう、ハレルヤも青髪も「何言ってんだこいつ」って顔してるし!

「ほ、ほら、あの、俺さ、えっと」

やばいもう何言ったらいいのか全然わかんねえ。というか何で友達になろうって言ったのかもわかんねえ。
一人わたわたしていると、ハレルヤがいきなり笑い出した。

「え?」
「いや、悪い。お前、おもしろいな」

くつくつと笑いながら言われるとちょっと恥ずかしくなった。

「わ、笑うなよ」
「くっ。むり、無理だろ。なんだよいきなり。お友達って。あんたは初対面のやつに手当たり次第そんなこと言ってんのか?友達100人作りましょうってか?」

くう。すげえ馬鹿にされてる。年下だろうに。

「お前年上に向かってそれはねえだろ」

とりあえず言っておかないと俺はずっと馬鹿にされるだろうし。それは勘弁だ!
そう言ってハレルヤのほうを見るとぽかんとした顔をしていた。え、俺なんか変なこと言ったっけ。

「俺、中3なんだけど」
「え、」

じゃあ、同い年!?う、嘘だろ!?
心の中で思っておくだけのつもりだったのについ声に出してしまった。やばい。なんか寒気する。
ゆっくりとハレルヤのほうを見る。般若がそこにいた。

「それはてめえ、俺が小さいと言いたいのか?そうか、そうなんだな?」

え、その、あの、だな。そんな言葉も言わせてもらえない。やばい、これは…っ!

「いやもうわかってるって、てめぇの言いたいことは。まあなんだ。ちょっと一発」
「ああ!俺用事思い出した!悪いな!また今度!」

ハレルヤの言葉を遮って大声を出した。そして真逆を向いて走り出す。これしかねえ!俺殴られたくねえし!

「おい、ちょ、待てこらぁ!一発殴らせろ!!」

うわああ追っかけてくる。しかも速い。顔は般若のままだし!こええええええ!!
だが足の速さなら負けねえ!
全速力の壮絶なリアル鬼ごっこの結果、なんとか振り切ることに成功した。あ、危なかった。
ぜえぜえとひざに手をついて息をしていると、後ろから声が聞こえた。

「何やってんだお前?」
「ああ、兄さんか。いやちょっと般若と鬼ごっこしてた」
「は?」

あーあ、連絡先も交換できなかった。残念だ。だが、今度会ったら確実に俺は死ぬから会いたいような会いたくないような微妙な気分だ。
まだ訝しげにこっちを見る兄さんを無視して共に家路についた。






また会うことになるなんて今の俺には全然わからなかったわけで。
入学式で教室に入った瞬間に「死ね!」という叫びと共にドロップキックを食らうことになるのだった。








次はニール編








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