04.牽制、そして宣戦布告


「結構遅くなっちまったな」

時計を見ると、もうそろそろ7時というところだった。
下校時刻は原則として6時になっているから本来はいけないのだが、部活動などは暗くなってもやったりするからあまり意味はない。
部活動の喧騒を遠くに聞きながら寮に向かう。

(アレルヤ怒ってるだろうな…)

そう思うと少し帰るのが憂鬱だ。
兄は心配性だから何も言わずに遅くまで出ていると必ず怒られる。その度に俺はガキじゃねえと言い返すのだ。
それを思い出すと自然とため息が出た。

「どうした?ハレルヤ」

ニールが心配そうにこちらを見る。話す気はないので「なんでもねえよ」とだけ返しておいた。
ああ、そういえば。

「ニール、お前に貸してる漫画の新刊買ったんだけど読むか?」
「えっマジで!?読む読む!」

思ったよりうまいこと釣れたな。悪いが一緒に怒られてくれ。
心の中でニールに謝りながら寮までの道を心持ちゆっくり歩いた。






ドアの横に備え付けられている機械にカードを通すと、ピピッと小気味いい音をたてて鍵が開かれる。

「ただいまー…って、あれ?」

少し声を抑えてドアを開ける。反省してますよー、っていう精一杯のアピールだ。
その後に疑問符がついたのは、そこにライルが居たからだ。

「よお、おかえり」
「いやいやおかえりじゃねえし。なんでお前がいんの」
「まあまあ、細かいことは気にしなさんな」
「細かいことじゃねえ!てめぇアレルヤになんかしてねえだろうな!」

こいつは何するかわかんねえからできるだけ間に俺がいるようにしてたのに!

「ん?なんだなんだ。どうした?ハレルヤ」

後ろからニールがやってくる。廊下で待ってたのかお前。誘った意味ねえじゃん。

「うお、なんでライルがいんだよ」

ニールが少しむっとしたように言う。なんでちょっと怒ってんだこいつ?
まあ俺も大分喧嘩腰だけどさ。それはアレルヤを心配してであってだな。ニールに怒る理由はないはずだ。なのに。

「だって兄さん帰ってこねえからヒマでさ。ここに遊びに来たらハレルヤも帰ってこねえって言うし。だから暇人同士おしゃべりしてたんだよ」
「そうだよ、ライルは何もしてないから大丈夫だよハレルヤ」

アレルヤににっこりと諭される。まあ、アレルヤが言うなら、いいけど。
それにしてもアレルヤとライルって何を話すんだろう。ちょっと想像がつかない。
自他共に認める鈍さを持つ俺には、ニールが苛ついている理由も、アレルヤとライルの間にある冷えた空気にも気付くことが出来なかった。






「あれ、アレルヤしかいねえの?」

30分ほど前、俺はあまりの暇さに耐えかねてハプティズム兄弟の部屋を訪れていた。
が、そこにはお目当てであるハレルヤは居らず、兄のアレルヤが居るだけだった。

「はい、まだ帰ってきてなくて」

僕だけですいません。と苦笑しながら言われ、慌てて取り繕った。

「いや、そうじゃねえって。気分悪くさせたなら謝る。ごめんな」

アレルヤは、大丈夫ですよ、とだけ言って部屋に迎え入れてくれた。
実は俺は少しアレルヤが苦手だ。乱暴だが気さくなハレルヤとは違い、アレルヤは優しくて大人しいから思ったことをずばっと言うとすぐに傷つきそうで怖い。

「コーヒーでいいですか?」

もう淹れてしまったんですけど、とはにかむアレルヤは、ハレルヤと兄弟とは思えないほどかわいい。兄さんが気に入るのもわかる。

「ああ、さんきゅ」

俺も人当たりのいい笑みを浮かべて礼を言った。アレルヤは、というかこの兄弟は意外と料理が上手い。アレルヤはともかく、ハレルヤも上手いというのは本当に意外だった。
コーヒーも例に漏れず、2人の淹れるコーヒーや紅茶は店のもののように美味かった。
それから2人で他愛もない話をした。大体は俺から話を振って、アレルヤが相槌を打ったり笑ったり。いい雰囲気のまま時間は過ぎた。
だが、アレルヤは気付かれてないつもりだろうが、少し表情が凍るときもあった。
ハレルヤの話をしたときだ。
最初は俺の思い違いかと思ったが、話を続けていくにつれて、アレルヤの表情が少しずつ曇っていく。本当に、少しずつ。
俺は、賭けにでることにした。アレルヤに嫌われるかもしれない、もしかしたらハレルヤにも。でも、このままじゃ、俺は。

「アレルヤ」

だめだ、このままじゃ。俺は、

「何?」

俺は、アレルヤに、

「俺さ、ハレルヤのことが好きなんだ」

アレルヤに、負けてしまう。

「だからさ、アレルヤ。協力してほしいんだ。だめかな」

漠然と、そう思ったんだ。




アレルヤはぽかん、としたまま何も言わない。

「アレルヤ?」

俺の言葉にはっとしたアレルヤは、それでも何も言わず俯いた。そして、

「…です」
「え?」

小さすぎて聞こえなかったそれは、今度ははっきりと聞こえてきた。

「嫌です」

俯いていて表情は窺えない。が、その声ははっきりとしていて、いつもの柔らかさは微塵も感じられなかった。

「たとえそれがハレルヤのためだとしても、それでも、僕は嫌です。弟を、ハレルヤを、」

アレルヤがすっと顔を上げる。切れ長の瞳が俺を睨む。初めて聴く声、初めて受ける視線に俺は竦んだ。

「あなたに渡したくはない」

はっきりとした拒絶。だがここで気迫負けするわけにはいかない。
俺は、口は弧を描き、だが瞳は決して和らげず、じっと押し黙ってアレルヤを睨んだ。
長い時間が過ぎたように感じた。
そのとき、ピピッという音に俺ははっとした。それはアレルヤも同じようだった。
「ただいまー」という声と共に、今まさに話の中心であったハレルヤが入ってきた。
俺を見て不思議そうな表情をするハレルヤに「おかえり」といいつつ、ふと時計を見ると、1分も経っていなかったことに驚いた。






丁度晩御飯の時間になったので4人で行くことにした。
前ではハレルヤとニールが楽しそうに話している。
僕とライルは、先ほどのことが尾を引いてか、お互い気まずいまま一言も言葉を交わさなかった。
食堂の手前まで来たとき、ライルに「アレルヤ」と呼び止められた。

「何ですか?」

にっこりと笑い振り向く。目が笑っていないのは、自分でもわかっている。
ライルも同じだ。口は笑っているのに、目が笑っていない。

「あれ、嘘じゃねえから」

あれ、というのは先ほどのことだろう。そうわかってはいた。

「あれ、って何のことですか?」

わざととぼける。ライルがしかめっ面をすることを見越してのことだ。

「お前…まあいいや。俺、お前にどう思われようとハレルヤのこと諦めるつもりはねえから」

そこでライルは僕の耳元に顔を寄せる。

「何が何でも、ハレルヤを俺のもんにしてやるよ」

そう言うと、さっさと食堂へ行ってしまった。

「何してんだアレルヤ。早くこいよ!」

そうハレルヤに言われたので、「すぐ行くよ」といつもの笑みを作り歩き出す。






わたしませんよ、ライルさん。
ハレルヤは、ぼくの大事な弟ですから。








やっとこの日が終わりました。
アレルヤもハレルヤもブラコンです。アレルヤのほうが依存度は高め。
ライルがハレルヤを好きになった経緯はまた。








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