なまいきな


2人の出会い話なのでラブラブはしてないです




静かな教室内に講師の淡々とした声だけが響く。
当てられてはたまらないので俺はいつも早めに来て後ろの席を陣取っていた。
今日もそうだ。頬杖をついてつまらなさそうに板書を写す。やる気のない大学生のお手本みたいな状態。
だからか、よく声をかけられるのは。

「ニール、ニール」

後ろから、授業中ということを考慮してか控えめな声が聞こえた。
誰かだなんて、もうわかりきっている。少しだけ後ろに視線をずらして応える。

「なんだよ、パトリック」

そいつ、パトリックは毎週のように俺を誘ってくる。
何に、かって?大学生によくあるアレだ、アレ。

「今日合コンあんだけどいかねえ?ニールがいると女の子が喜ぶんだ!」

ほら、やっぱりだ。こいつはなにかと俺を誘いたがる。
それはやはり、この女受けする顔にあるんだろう。
でも、俺はあまり合コンが好きじゃない。だから行きたくないんだけど。
初めて誘われたときは俺も乗り気で参加したさ。何もわかっちゃいなかったからな。
あのときの女の子たちの男を獲物のように見ていたあの目が、もう、だめなんだ。女は怖いということを認識させられた。
別に彼女がほしいわけでもないし、行く理由なんてどこにもない。ほら、断れ俺。

「ああ、別にいいぜ」

まあそこで断れないのが俺なんだけどな!わかってたさ!
こういう性分なのだ。もうこれは直しようがない。

「やっぱな!ニールならそう言うと思ってたぜ!」

ああもう、いいよそれでくそ。都合のいい男で悪かったな。
尊い犠牲となった俺の夜の時間。今日は映画を借りてこようと思ってたのに。
ひとり犠牲となるのは耐えられないので、俺はもう一人犠牲を増やすことにした。

「アレルヤ、アレルヤ」

俺の前の席にいるアレルヤに声をかける。
アレルヤも合コンなどの類が苦手だからだ。
1回誘ったら快く承諾してくれたが、帰り道に実は苦手で誘われると断れない性分であることを告白された。
自分と同じやつがいたということが嬉しかったし、その共通点があってよく話すようになった。
誘われたら断れないアレルヤのことだから今回も来てくれるはず!

「今日合コンがあるんだけどさ、アレルヤも行かないか?」
「あ・・・ごめんなさい。今日は予定があるんです」

すごく申し訳なさそうに断られた。断れるじゃないかアレルヤさんよ。

「そっか、そりゃ残念だ。もしかして彼女?」
「へっ、ち、違いますよ!」

それだけで顔を赤くして首を振って否定する。かわいいやつめ。

「お、弟です、弟。弟と買い物に行く予定なんです」
「弟?アレルヤって弟がいたのか」
「え、なになに、何の話?」

パトリックが乱入してくる。自然に俺の横に座った。気付かないうちに授業は終わっていたらしく、教室にいる人はまばらになっていた。

「アレルヤの弟の話」
「えっアレルヤって弟いんのか!?」

そこまでびっくりすることじゃなくね?
アレルヤも予想以上の反応にびっくりしているようだった。

「じゃあ門のところまで一緒に行くか。弟来てるんだろ?」
「あ、はい。じゃあご一緒させてもらいます」

アレルヤがふんわりとはにかむ。そこらの女子以上に女子っぽい笑みにちょっとときめいた。
俺はこういうタイプがいいんだよなー。穏やかで優しくて笑うとかわいいの。
アレルヤが女の子だったら俺絶対告白してたな。うん。






今日あったこととかを話しているうちに校門に着いた。なんか騒がしくないか?

「うわっなにあれ。すげえ。芸能人でもいんのか?」

そう言うパトリックが見ている方向に眼を向けると、黒山の人だかりに黄色い歓声。
確かに芸能人でもいそうな雰囲気だ。

「だってニールはここにいるもんなあ」
「おいおい、いくらなんでもあそこまでなんねえよ」

俺はあんなVIP待遇は受けた覚えはない。なのにパトリックに「自覚なしが1番むかつくんだよ!」と吐き捨てられた。ひどくね?

「あ、ハレルヤ…」
「え?」

アレルヤがあの人だかりを見て言った言葉は小さなものだったけど、俺の耳にはしっかり届いた。なに?ハレルヤ?

「ハレルヤって?」
「…あそこにいるの、僕の弟なんです」

………は?
え?ちょっと、どういうこと?
俺とパトリックが停止していると、人だかりの方から高校生が歩いてきた。…アレルヤそっくりの。

「あ、ハレルヤ」
「あ、ハレルヤ。じゃねえよ!見てねえで助けろ!」

アレルヤそっくりだ。ちょっと背は低いけど。
違うのは、髪の分け目と、そこから覗く瞳の色。
アレルヤは落ち着いた銀灰色なのに対し、ハレルヤはギラギラとした金色だ。

「あ?なんだよおっさん。じろじろ見やがって」
「おっ…!?」

おっさんだと!?それはあんまりじゃないか!?俺まだ21だぞ!
さすがの俺もしかめっ面を隠すことができなかった。そんな俺を見てアレルヤが慌てて叱る。

「は、ハレルヤ!そんなこと言っちゃだめじゃないか!」
「知るか。じろじろ見てきやがって気持ち悪ぃんだよ」

なんだこいつ!とアレルヤに叫びたくなるのをぐっとこらえるのに必死だ。こいつ本当にアレルヤの弟なのか?
この穏やかで優しい兄のどこを見たらこんな我が侭で自己中心的な弟が育つんだろうか。逆に兄に甘やかされてきてこんな風に育ったんだろうか。ありえそうだな、なんか。
うーん、と考え込んでいると、いつの間にかハレルヤが覗き込んでいた。見れば見るほどアレルヤに似てるな。

「…なんですか?」

つい敬語でしゃべってしまった。俺のほうが年上なのに。

「おっさんが何か考え込んでるから」

おまえのことですよ。とは言えずに言葉を濁す。

「ていうかおっさん言うな。俺まだ21だから」

しかめっ面でそう言うと、ハレルヤはぽかん、としたあとに腹を抱えて肩を震わせた。え、なんで笑われてんの?俺なんか言ったか?あとやっぱり失礼だなこいつ。
俺の不機嫌を隠さない表情に気付いたのか、ハレルヤは「悪い悪い」と言った。

「俺が本当におっさんだと思って言ってると思ってたのか、あんたは」
「え、だってそうでもないと初対面でおっさんは言わねえだろ」
「俺は口悪いからな、こういうのが普通なんだ。悪いな」

そりゃ悪いわお前。初対面でそんなこと言われてもそこまで察せねえよ。

「まあ、別に…いいけどさ」

釈然としないが、ここは年上だからと己に言い聞かせて身を引いた。ここで険悪になってアレルヤとの関係を崩したくない。
それにハレルヤも、口は悪いが性格が悪いわけではないと、思う。多分。うん。

「で、あんたの名前は?」
「え?」
「名前だよ名前。言わねえとずっとおっさんって呼ぶからなおっさん」

性格、悪くないと、思う。なんか自信なくなってきたけど。

「ニールだ。ニール・ディランディ」

ここで渋っても意味がないし、渋る理由もないから俺は教えることにした。おっさん呼ばわりは勘弁だしな。
ハレルヤは「ニールね、ニール」と小さく呟いていた。なんか少しむず痒いんだけど。なんでだろうか。
「じゃあさ、ニール」と言うから何を言われるのかと思ったら、

「そのジャケットどこで買ったんだ?」

……へ?ジャケット?
いきなりの話題に頭がついていかず、ぽかんとしたまま黙っていると「聞いてんのか?」とちょっと怒られた。

「あ、ああ聞いてる聞いてる」

生返事を返すと「ボケてんなよおっさん」と言われた。ほんと口悪いなこいつ。とりあえず、

「お前さ、俺のほうが年上なんだから敬語使えよ」

今更だが言ってみることにした。ずっとタメ口だからなこいつ。ちょっとは年上の威厳というものを見せてやらないと。

「はいはい申し訳ございませんでしたぁ。そのジャケットをどこで買ったのか私めに教えて下さりませんかニール様ぁ」

む、むかつく。こいつは人を苛立たせる天才なのか。ここまでとなるともう苛々を超えてどうでもよくなってきた。

「ああ…もう、いいよ別に。タメ口でいいです」

ため息をつきながら言うと、ハレルヤは「ひひっ」と歯を見せて笑った。ほら、まただ。なんだかむず痒い。なんだ?

「でさ、どこで買ったんだってば。ずっと気になってたんだよ」

そんなにこのジャケットが気になんのか。
これだったら結構ここから近いけど、裏路地だから説明しにくいんだよなあ。

「案内してやろうか?」

これが1番わかりやすいだろう。なぜかそのときは、合コンなんてことも忘れていた。

「マジで!?いいのか!?」

とたんにぱっと明るくなる。こういう顔は年相応って感じだ。
アレルヤに同行していいか聞かないとな。と思ってあたりを見回す。と、
あれ?

「おいパトリック、アレルヤは?」

アレルヤがいない。とりあえずそこにいたパトリックに尋ねてみる。

「ああ、アレルヤならマリーがなんとかって言ってどっか行ったぞ」

なんだそりゃ?

「ハレルヤ、マリーって誰?」

ハレルヤなら知っているだろう、と思い聞いてみる。

「あ?アレルヤの彼女」

は?え、嘘だろ!?

「アレルヤって彼女いるのか!?」

つい大声になってしまった。それを聞いてパトリックも「は!?嘘!アレルヤって彼女いるのかよ!」と叫んでいた。叫ぶ気持ちもわかる。アレルヤに彼女だと!?

「そんな驚くことか?あいつら高校のときから付き合ってるぞ」

マリーは病弱がちだから、久々に学校に来たマリーを迎えにいったとかじゃねえ?とハレルヤが続ける。

「あれ、じゃあ、買い物はどうすんの?」
「アレルヤは帰ってこねえだろうからいいんじゃね?行こうぜ」
「え、ニール、合コンはどうすんの!」

あ、忘れてた。でも合コンよりもハレルヤと買い物の方がよっぽど魅力的だ。

「なんだ、予定あんなら先言えよ」
「いや、いい。悪いパトリック。今日はパス」

そう言ってハレルヤの腕をつかみ歩く。後ろからパトリックがなにか言っているが無視だ。

「いいのかよ、あんた」
「いいんだよ。元々乗り気じゃなかったんだし」

そう言うと、それならいいけど、と呟くのが聞こえた。






そのときの俺は、ハレルヤと仲良くなれるといいなと思うだけで、自分の本当の気持ちには気づかなかった。
それから、この恋心に気付いてしまった俺はまた悶々としていくわけだが、それはまた、別の話。




end.





アレルヤとパトリックさんごめんなさい。
複数人を一気に動かすのは苦手です。







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