02.生徒会長について


「あーもうマジで最悪だぜ」

俺は嘆息しながら手のひらで顔を覆った。
最悪とはもちろん、ハレルヤに下されたファイル整理のことだ。
あんな量の整理1日で終わるわけがない。いや、たとえ丸1日かけたとしても終わらないだろう。
もう何度目かわからないため息をつく。

「まあしょうがねえだろ。居眠りしてた兄さんが悪いんだから」
「うるせ。あいつ俺だけに厳しいと思うんだけど気のせいか?」

多分気のせいじゃないんだろうけどな…。あの厳しさはなんなんだ。
あの悪魔のような笑みを見ると背筋が凍る。要するに、怖いんだ。情けねえけど怖いんだからしょうがない。
いつもはやんちゃな弟って感じなのに、あの笑みだけは慣れない。
生徒会長モードみたいなものがあいつにはあるんだろうか。

「大丈夫だよニール。ハレルヤはそんな差別しないよ」

アレルヤがにっこりと笑って言ってくれた。アレルヤ、悪いけどそれはない。
アレルヤへの態度と俺たちへの態度は天と地ほどの差があることをこいつはわかってないんだ。
ほら、ライルも「やれやれ、アレルヤはわかってねーなー」といった感じで苦笑してるし、ここにはいないが刹那やティエリアだってそんなことわかりきっているだろう。
まあその鈍さがアレルヤなんだけどな。だからあえて何も言わないことにする。

「そういえば、その暴君会長はどこだ?」

ライルが辺りを見回す。そういえばいねえな。一緒に来てるもんだと思ってた。
そんな俺たちは今生徒会室へ向かって歩いている。当たり前だが生徒会活動のためだ。

「ハレルヤならトイレ行ってるよ。後から行くから先に行っとけって」

アレルヤが答える。なるほど、トイレね、トイレ。

「んじゃ、さっさと行って仕事終わらせますか。さっさと帰りてえしな」

にやりとしながらライルが言う。いわずもがな俺へのあてつけだ。

「あ、ぼ、僕、手伝いますよ」
「いいっていいって、兄さんが言われたんだからやらせておけば。悪いのは兄さんなんだし」

おいライル、それは俺の台詞だろうが。軽く睨んでもライルは首を竦めるだけだった。
それからまだ渋るアレルヤの方を向き、

「ほんとにいいぞアレルヤ。ライルの言うとおり結局は俺が悪いんだからさ」

そう言うと、アレルヤは「ニールがそう言うなら」と言って身を引いた。うんうん、それでいいんだ。アレルヤに迷惑かけるわけにはいかないしな。

「ほら、さっさと行こうぜ。ティエリアに怒られちまう」




 

「よう、頑張ってるか、会長」

トイレから出てきた俺に声がかかる。
振り返ると、元生徒会長であるヨハンが軽く手を上げていた。

「よう、頑張ってるか、寮長」

鸚鵡返しに尋ねる。

「まあぼちぼちだな。ていうか質問に質問で返すなよ」

苦笑しながら言われた。ごまかしたのは、多分ばれているだろう。
別に頑張ってないわけじゃない。ただ、うまくやれていないだけだ。
そのへんも全てわかっていて聞いてるんだろうから、俺はあえて何も言わなかった。

「お前、まだそれしてるんだな。やっぱりそれがないとだめか」

それ、というのは俺が今している眼鏡と、後ろで纏めた髪のことだ。トイレに行った理由はこれをするためだ。
生徒会長になったときから生徒会活動のときはいつもこうしている。
これらは、いつもの俺と生徒会長の俺を区別するためのものだ。言い換えると、これがないと、俺は生徒会長のハレルヤ・ハプティズムになれないんだ。気分的なものだけどな。

「まあ、そう、だな」
「そうか」

目を合わさずに言う俺にヨハンはそれだけ言った。

「そうだハレルヤ、ミハエルはどうだ?」

微妙な空気を変えるためだろう、弟であるミハエルの話を出してきた。その意図を汲み取って俺も表情を崩す。

「あいつなら変わらず馬鹿だぜ。今日も寝てたから起こしてやった」
「相変わらずだな・・・お前もどうせ椅子蹴って起こしたとかだろ」
「おお、よくわかったな」

2人で笑う。やっぱりこいつとはこういう話をしているほうがいい。
さっきみたいな気が張る話は元々好かないんだ。
そういえば、時間は大丈夫だろうか。さりげなく左腕の時計を見る。
………あ。

「やべぇ、もう時間じゃねえか!」

ティエリアに怒られる!!と続けるとヨハンは爆笑した。なにが面白いんだちくしょう!

「くく、後輩に怒られるのか。鬼会長も形無しだな」
「うるせっ!俺もう行くからな!」

走り出そうとしたら腕をつかまれた。ちょっ、俺が急いでるのわかってやってんのかこいつは。
怒鳴ろうとしたら、つかんでないほうの手を頭にのせられた。そのまま撫でられる。

「な、にすんだよやめろって!」

子供扱いされているような気がして顔が赤くなる。その手をどけようとしてもがいていると撫でられていた手が止まる。

「まあ、なんだ。ハレルヤ」
「なんだよ」

ぶすっとした顔で答える。むかついたアピールだ。
だが「何かあったら俺に言えよ」という言葉に表情が戻る。
見上げると、ヨハンはさっきのような真剣な顔をしていた。あれ、なに、またこの空気か?

「お前さ、今の生徒会の奴らには何も相談しないだろ。だからさ」

頭も腕も解放された。

「俺でよければ何でも聞いてやるから、相談しろよ」

こいつはなんでこう、全部わかってるんだろう。
俺の性格を全てわかった上でこいつはこう言ってくれている。
他のやつらにはないそれが、少し、うれしかったりする
だから俺は、「じゃあな」と言って歩いていくヨハンに「おう」と言ってから、
心の中だけで「ありがとう」と言っておいた。
声に出しては絶対に言ってやらないけど。







なんかシリアスになってしまった。
本当は2話でこの日の話は終わらせようと思ったけど長くなったので3話に持ち越します。











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