間違い探し
○原作ネタバレあり+捏造過多どうすれば、唯一無二の親友と恋人を救えたのだろうか。
光と闇が凝縮されたような過去に遡って、未来を変えられるだろうかと幾度も幾度も考えてみたけれど、結局同じ未来に辿り着いてしまう。
分岐点にある選択肢は無数に用意されていて、その中に正しい選択肢というものがもし存在していたとするならば、知らず知らずのうちに全て間違いを選んでしまった結果がきっと今の現状なのだろう。時間逆行ものの映画でよく見たハッピーエンドとは程遠い末路だ。
はあ。誰にも聞かれてないことをいいことに、五条はとても大きな溜息を一つ吐いて、今いる場所をぐるりと見渡した。視線の合わない無数の骸が積み上げられるようにして周りを取り囲んでいる。今までに自分が守れなかったもの、取りこぼしてしまったものがここに存在しているのかもしれない。そんなつまらない考えがつい頭を過ぎって、柄にもなく「ごめん」と呟いていた。
一般的な時間という概念が失せてしまったこの空間で、思考する時間だけが永遠とあった。だからどうしようもない過去の海に溺れてしまうのは仕方のないことだ。過去の断片を拾って、集めて、嵌めて、足りない部分をそのままに繋げて、歪な現状の出来上がりだ。
「すっごい難しい顔してるね」
ふいに聞こえてきた明るい声に顔をあげると、目の前に名前がいた。骸の上に腰をかけて、楽しそうに足をぶらぶらと動かしている彼女は、家で寛いでいるような気軽さで話しかけてくる。あまりにも唐突だったから「名前?」と呼びかけた五条の声はわずかに震えた。名前は「うん」と白い歯をのぞかせて笑った。この薄暗い場所に似つかわしくなく、彼女は白く淡く光っている様に見えた。
「眉間に、皺がぎゅーって寄ってたよ」
透明な指先が五条の眉間に触れ、そこからその質量も温度もない気配だけの手が、顔の輪郭を確かめるように何度も撫でる。からだのどこもかしこも熱がともっているはずなのに、撫でられたところだけ水を薄くまとっているように涼しい。
なんでまたここに、と問おうとするよりも先に「もうどこにも行くなって言われたから来ちゃったよ」と名前ははにかむようにして微笑んだ。
神様なんてちっとも信じていないが、もし人の形をしているとしたら、名前のような姿なのだろうか。
「ねえ、名前。これからの話を一緒にしようか」
「うん、いいね」
今のところ、未来という言葉と遥か無縁の世界にいる二人で、最高にハッピーで明るい未来について話すのも悪くない。どちらからともなくくつくつと喉を鳴らして笑いあった。