誕生日
毎年この日は決まって観覧車に乗る。
大きいけれど古いこの観覧車は、高さ半分を過ぎたあたりになると少し風に煽られるだけで、ぎしぎしと錆びた音を立てる。
足を少し伸ばすとすぐ向かい側の席に靴のつま先が当たって窮屈だが、この狭さは別に嫌いではなかった。
「わたし、何歳になったんだろう」
もう季節だとか時間だとかそういう概念を失ってしまった名前は純粋に問いかけた。
「その姿だと、四歳、かな」
あの頃とちっとも変わらない姿で今日も名前は現れた。真っ白で上品なワンピース。四年前と違って、赤色に染まっていない。
「悟は何歳になったの?」
「二十八。僕もうアラサーだよ、アラサー」
「そっか」
どうりで少し老けたわけだ、と窓の外を見つめている。本当ならば名前も同じ歳になっていたはずだという言葉を飲み込んで、このナイスガイを目の前にしてなんてこと言うの、と文句を垂れつつ、名前と同じように五条も窓の外を見た。
ゆっくりと観覧車は登っていく。地面が随分遠くなってきて、頂上にさしかかろうとしていた。
名前がちらりとこちらを一瞥して「ねえ、悟」と静かに口を開いた。
「祓わなくて、いいの?」
彼女の左手薬指についているピンクゴールドの指輪が西日に照らされ、眩しくてつい目を細めた。この日だけは、同じものをつけている五条はそれを無意識に撫でていた。
「祓えるものなら、もうとっくに祓ってるよ」
名前は感情の読み取れない、さっぱりとした淡い顔をして「それもそうだね」とひとりでに呟くように言った。その顔が生前とあまりにも変わっていなくて、喉の奥から愛しさと苦しさとが綯い交ぜになった感情が込み上げた。その感情は行き場を失い、やがて指先に触れる輪に熱だけ移す。
ぎしぎし。音を鳴らしながら今度はゆっくりと下降していく。一年でたった一日だけ会えるこの時間もあと残り半分。五条はもう触れることすらできない彼女の顔を、ただただ見つめていた。