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「#幼馴染」のBL小説を読む
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みかん

 炬燵の上にこんもりと盛られた蜜柑を手に取って、中心のへこんだ部分に親指をぷすりと差し入れて剥いていく。丁寧に剥いていくと、それはとてもきれいな星のようなヒトデのような形をした皮が出来上がり、まるで一つの芸術作品のようだった。剥かれた蜜柑を半分にしてから実をひとふさとって、口に入れる。噛んだ瞬間、果肉から汁が飛び出して舌の上で甘さと酸っぱさが同時にしみ込むように広がった。やっぱり蜜柑はうまい。思わず顔が緩んでしまうほどにはうまい。
 果肉の一粒一粒を堪能しながら、となりにいる彼女が剥いた蜜柑を見る。その蜜柑は、お世辞にもきれいとは言えなかった。外の皮と一緒に薄皮も捲れており、果肉がところどころ露出していた。その露出した果肉がいくつか潰れているせいで、さらに橙色の雫が垂れていた。それに加え、皮も細かく千切ったようなものが複数枚炬燵の上に散らばっていて、蜜柑の皮と実のどちらとも見るも無惨な姿に成り果てていた。
「ひっでえ」
 思わずそう口にすると、彼女はじっとこちらを睨んで言い返そうと口を開く。おそらく「わたしのとそんなかわらないじゃん」とかそういうことを言おうとしたに違いない。が、その前に俺の剥いたきれいな蜜柑を視界に入れて、ムッと悔しそうに口を閉じた。そして唇をへの字に歪めて、自分の剥いた蜜柑と皮をまじまじと見てから諦めたようにふうっと息を吐いた。細かく無惨に散らばった蜜柑の皮を摘まんで、俺が剥いた蜜柑の皮と見比べて彼女は言った。
「全然違うね。わたしの蜜柑はなんだかかわいそうだ」
 そう小さく嘆いてから肩を揺らして笑った。俺も、つられて笑った。そのときふと視線が絡まる。それから同じタイミングで同じ言葉を紡いだ。
「今年もよろしくな」
「今年もよろしくね」
 炬燵の中で絡まりあったあしをさらに絡ませて、俺たちは蜜柑を頬張る。それから互いにひとふさ交換して食べた。ちょっと時間がたってしまって白い筋と薄っぺらい皮はぱりりと固くなっていた。けれどもそれも舌の上に乗っけると気にならなくなった。むしろ、この固さがなんとも俺達らしいではないか。
 炬燵に蜜柑に、となりには不器用でかわいい彼女。なんと幸せな年明けだろう。