- 愛と勇気と希望 -
「わたしは御幸くんと結婚がしたい」
包み隠さず正直に自分の欲を吐き出すと、倉持はまたか、と言いたげに盛大に顔をしかめた。そういえば、御幸くんにチューをしたいって話もつい先日にしたばっかりだった。
「俺に言わずに本人に直接言え」
呆れつつも、わたしの話にいつも付き合ってくれる倉持は多分、というかすごくいいヤツだ。だからわたしもそんな倉持についつい甘えてしまう。御幸くんによると、倉持は面倒見がとてもよく、ほっとけない性分なのだそうだ。見た目は元ヤンなのに。そんなこと言ったらチョークスリーパーをきめられてしまうので、絶対口にしないけど。
「残念ながらもう既に言った。というかほんの数分前に言った」
「まじか。ほんとそういうとこだけはすげーよな、お前」
「断られたけどね!」
がっくりと項垂れると、彼は頬杖をついて「だろーな」と納得したように頷いた。予想通りだったらしい。なんだか癪だ。
「俺と苗字さん、まだそういう関係じゃないからできねえって、…………うっうっ、」
「ウソ泣きすんな」
「いたっ」
頭に先輩直々に教えられたというチョップを食らう。地味に痛い。本当に涙が出てきた。
「これが御幸くんの照れってヤツかな!」
「プラス思考すぎだろ」
「御幸くんだけに発動する思考回路なのだよ、倉持くん」
ふっふっ、と得意気に笑ってみせると「あっそ」とすげなく返される。
「じゃあ逆に考えてみろよ。もしお前が好きでもなんでもないヤツから急に“結婚したい”って言われたらどーすんだよ」
彼に言われるがままに考えてみた。
これっぽっちも興味のない男性が「ちょー好きなんで結婚させてください、おねしゃす」とかなんだか言って御幸くん以外の腕がわたしの腰に回っていきなり抱きしめられたりしちゃったりして……。おえー。だめだ、想像するだけで吐き気を催すくらいには気持ちが悪い。
「全力で引く。そして丁重に断る」
「それと同じじゃね? 」
倉持の言い分はもっともであった。
「…………………………たしかに」
「だろ?」
「…………………………倉持の癖に正論じゃん」
「なんでお前は上から目線なんだよ。俺のことゴミとかとでも思ってんのかよ」
「否定はしない」
「そこは否定しろよ!!」
「そこで嘘はつけない」
「……なあ、でも御幸は“まだ早い”って言ったんだよな」
「うん、そうだよ」
「“まだ”ってことは望みはあるんじゃね? まあ希望的観測だけどよ」
そうか、まだってことは、ちゃんと段階を踏めばチャンスはあると、そういうことを御幸くんの言葉の裏には含まれていたわけか。目の前が明るくなっていく。
「倉持ィィ!! ありがどぉぉぉぉ!!」
「うっせえ! 耳元で喚くな!」
そういう倉持も、すごく声が大きい。
「愛と勇気と倉持だけが友達だよぉぉぉ!! こう、なんていうの?! 希望の光がパアッと射し込んできた感じ!! 言葉に言い表せない幸福?!」
「だからうっせえっての!!」