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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 御幸が可愛らしい色合いの手紙を見ていた。そのギャップに驚き、何を尋ねるために御幸の部屋まで来たのかすっかり忘れてしまった。
「なんだそれ」
「なんだと思う?」
「質問を質問で返すなよ」
 よくよく見れば、行間を空けずに文字がぎっしり詰まっている。読むのに苦労しそうだ。御幸宛にラブレターをこんな熱心にわざわざ書くやつなんているわけ…………、あ、一人思い当たった。
「……まさかとは思うが、苗字からの手紙か?」
「ビンゴ」
 初耳である。しかも愛がクソ重すぎないか、苗字よ。こんなの貰う身でもなければ、今まで貰った経験もないが、普通に引く。声も出せずただただ佇んでいる俺に追い討ちをかけるように「これ全部」と今まで貰った手紙を見せられた。どうやら二週間に一回ペースで貰うらしい。ドン引きである。
 怖さ見たさに恐る恐る薄目で手紙の文字を追ってみる。内容は御幸に対する暑苦しいほどの想いと、どうでもいい苗字の日常について語られていた。学校でほぼ毎日会ってるし、休み時間の度に三人で話しているし、練習試合も見に来ている。その上、御幸曰く携帯でメールのやりとり(簡素らしいが)も行っているらしい。それでも苗字にとっては御幸が足りないというのか。そこまでの愛をひたすら御幸に捧げる苗字は健気と言えなくもな……いや、やっぱり引くわ。けれど、手紙を眺める御幸は満更でもなさそうで、寧ろ「こんだけ話題があるってすげーよな」と感心している。こいつもこいつでどこかズレている気がする。
「もうさっさと付き合っちまえよ」
 御幸は手紙から顔をあげて驚いたように目を丸めている。そんな反応すると思わず、逆にこちらが「なんだよ」と途惑う。別に意外なことを言ったわけではない。会話の流れとしては至極当然の流れだと思うが。
「……俺、もう付き合ってると思ってたんだけど」
 御幸がなんかとんでもないこと言い始めた。理解が追いつかなくて数秒の間を置いて「はあ!?」と意図せず大きな声が出た。
 ちょっと待て。待ってくれ。俺は頭を抱え込んだ。俺が知らない間に付き合い始めたのか? いや、あり得ない。だってそういうのは苗字が逐一報告してくるからだ。付き合うとなった暁には、大量の喜びのスタンプが送りつけられてくるはず。トークアプリを開いて確認してみたが、特にそういうのもなく、「今日うちのご飯オムハヤシ」という内容と共に写真が送られていた。夕食をすませたというのに腹が鳴る。飯テロかよ。いや今はそんなことどうでもいい。
「付き合ってるって、おまえ、それ苗字に言ったのか?」
「言ってねーけど、“下心ありありで友達になりませんか?”って言われた時に、別にいいけどって俺応えただろ?」
 たしかに御幸はそう応えていた。だけど、そんな曖昧すぎる返事でどうしたら付き合ってるという思考回路に至るのだろうか。絶句である。苗字も苗字だが、こいつもこいつで問題ありだ。どこから突っ込めばいいのか、もはやわからない。苗字にすこしばかり同情することになろうとは。
「今すぐ苗字に電話しろ」
「はあ? なんだよいきなり……」
「口答えすんな。電話して俺と話したことそのまま繰り返せ」
「こっっっっわ」
 わかったよ、と御幸は仕方なく肩を竦めて見せて、携帯を持って外に出て行った。その背中を見送った後、本来の目的を思い出す。来週のトレーニングメニューを先に聞いておこうと思って御幸の部屋に訪れたのだった。まあそれは別に明日でいい。今はただじっと苗字から大量の喜びのスタンプが送られてくるのを待つだけだ。机の上に広げられた手紙たちがようやっと報われる時が来たのだ。
 御幸と同室の後輩たちに見られるのはさすがに可哀想だと思いそっと片付けておいた。