×
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


たぶんこれが一目惚れってやつ



 雨が降るたびに、名前の弾くジムノペディのメロディが頭の中で雨粒のように落とされていく。窓の外は白く曇っていて、雨戸を開けると湿った空気がなだれ込んだ。
 こんなとき、いつもまぶたの裏に鮮やかに蘇るのは、昼休みの高校の音楽室だ。
 音楽室に筆箱を忘れたので取りに戻ると、扉の隙間からピアノの音が洩れ出ていた。その音に惹かれるようにドアノブに手を掛けて開けると、廊下で何度かすれ違ったことのある女子が片隅に置かれているグランドピアノを弾いていた。
 かちり、と彼女の澄んだ瞳がまっすぐに俺を捉える。ほんの一瞬、驚いたように目を丸めるが、すぐに鍵盤へと視線を戻し、そのまま弾き続ける。降り続けている雨音と彼女が奏でるピアノの音色が混ざり合って、窓の外と音楽室の境目が曖昧になる。冷たくも温かくもない雨が、この空間に静かに降っていた。俺はその場に足を縫い止められたかのように動けず、鍵盤の上をなめらかに自由に移動するその白い手をぼんやりと眺めた。
 ふと、彼女の手が止まると同時に、ピアノの音も消える。雨の中にいた自分の意識が、ゆっくりと現実へ浮上する。彼女の奏でる世界にもっと浸っていたいと思った。
「どうだった? わたしのピアノ」
 小首を傾げ、好奇心に満ちた目がこちらを向く。感想を問われたところで、バレーボールしかやってこなかった自分に音楽の知識なんて殆どない。
「雨の音みたいだった」
 頭に浮かんだことをそのままに伝えると、彼女は唇の両端をにっと引いて微笑んだ。愛嬌のある笑い方に、らしくもなくとくりと肋骨の奥が小さく跳ね上がる。
 これが、俺と彼女の出会いである。