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「#お仕置き」のBL小説を読む
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実はおにぎりも作っておいた



 本日の夜、一大イベントがある。名前が出場している国際コンクール三次予選結果発表の日だ。そのコンクールは日本で行われており、ほとんどの出場者はその場で発表を待っているのだが、彼女は三次の出来に納得できていないらしく、「落ちてんだから行ったところで交通費の無駄だよ」の一点張り。次に行うピアノリサイタルに向けて気持ちを切り替え、ここ東京の家で練習に励んでいる。通過する可能性も十分にあるわけだし、結果発表の場に居た方がなにかと都合がいいのではないかと言っても聞く耳持たず。そんな彼女はピアノのある自室に籠城していた。
 時計に目を向けると、そろそろ結果が出る時間に差し掛かろうとしていた。まだ部屋に篭って鍵盤を叩いてる彼女の部屋に押し入って「発表始まるぞ〜」と告げると渋々と手を止めて「どうせ落ちてるよ」と拗ねた子どものように下唇を突き出す。まあまあと嗜めている間にも画面の向こう側で審査員の人たちが階段を降りてくる。審査員代表の女性が三次予選の全体の感想を述べてから、合格者の番号と名前を順番に読み上げていく。名前はふわあとあくび一つ洩らして、気怠げにタブレットの画面を見つめている。名前の番号が近づいてきても、表情ひとつ変えない。なんなら俺の方が緊張しているくらいだ。次に名前の番号が呼ばれなければ落ちるというタイミングで、俺は息を詰める。数秒後、「No.85、名前苗字」と名前が呼ばれた。ほっとして、詰めていた息を一気に吐き出した。名前は驚きのあまり瞬きもせず、画面を食い入るように見つめている。ファイナルに残ったのは十人で、そのうちの一人に名前が選ばれたのだ。
「……え? 今わたしの名前呼ばれた?」 
「呼ばれたな」
「ファイナリスト?」
「だから言ったろ? 結果わかんねーんだからそんな落ち込むなって」
「……次は、」
「三日後だろ」
「うっわ〜、ファイナルのオケリハスケジュールは直で取らなきゃ……新幹線の時間は、」
「今からだと十九時半のに乗れるな」
「あと一時間……! あ、切符取らなきゃ」
「こんなことになるだろうと思って、さっきネットで取っといた」
「鉄朗と住んでてよかった〜」
「ハイハイ」
「本気で言ってるよ?」
「わかってるって。けどそんな悠長なこと言ってる間にも時間は迫ってきてるぞ。落ちてると思ってなんの準備もしてねーんだろ?」
「そうだった。非常にまずい」
 ファイナル進出おめでとう、と祝う暇もなく、ばたばたと慌ただしく準備にとりかかる。言ったところで、まだコンクール終わった訳じゃないから祝うのは早いって言われるのがオチだろうけど。
「準備できたら車出すぞ」
「愛してるー!!」
 安い愛の叫びだというのに、俺の口元はゆるゆるだ。こんな些細なことで名前に愛を叫ばれるのなら、愛の安売り、惜しみなくさせていただきますよ。