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きみが眠ったあとに

 灼がソファですよすよと眠っている。寝顔は口を少し開けて子供のようにあどけなく可愛らしいのに、右足と右腕がぶらりとソファから下に投げ出されており、金曜日の夜にときどき見かける酔っ払いの人みたいで、可愛らしさが台無しだ。子供と大人が両方同時に存在してるみたいでどこかアンバランスなのだけれども、そこがなんだか灼らしいなと自然と微笑んでしまう。
 篤志さんが亡くなってから、灼はどうやら眠りがとても浅いらしく、ここ最近はうつらうつらと夢と現を彷徨っている様子を目にする。そのとき「眠いの?」と問いかけても「んー、大丈夫だよ」と目を擦りながら笑うので、それ以上あまり突っ込んで問うことをしなかった。でもやはり無理をしているのだろうか、と少し心配になる。
 もう夜ご飯できたよ。冷めちゃうよ。そう声をかけながら灼の肩を揺り動かそうとした手を止める。また温め直せば済む話だし、なんなら明日にとっておくのもいいだろう。今日は起こさずに、そのまま寝かせてやることにする。いつもなら少しの物音でも立てれば、灼は目が醒めてしまうけれども、どうやら珍しく深く眠っているみたいだし、せっかくの睡眠を邪魔するのも悪い。ジャケットを脱がし、ネクタイとベルトだけ抜き取って、押し入れから毛布をとってきてそっとかける。そのとき「重い…」と僅かに寝言が聞こえてきたが体を冷やすよりかはマシだろう。
「今日もお疲れ様、おやすみなさい」
 恐る恐る灼の頭に手を置いて撫でる。いつもならふよふよしている髪の毛は、泊りがけの仕事を終えた後だからか少しくたびれて撓っている。平和を守ってくれてありがとう。大きなおでこにそっと唇を落とした。
「……名前、」
 小さく呼ばれた自分の名前に目を瞬く。もしかして起こしてしまったかもしれない。けれども続く言葉はなく、すうと穏やかな寝息だけが聞こえる。私の心配は杞憂に終わったようだ。そして灼の眠る姿を見ていたら、頭にゆうらりと眠気がたちのぼってきた。私もここで寝てしまおう。床に座って、ソファにもたれかかるようにして目を瞑った。灼の寝息はまるで子守唄のようだった。