糖分摂取
目の前にかき氷がある。それは洗面器みたいな大きさのカゴ(もうちょっといい例え他にあったよね? と灼から指摘があったが、これ以上ぴったり合う表現は見つからなかった)にこんもりと盛られていて、アイスクリーム、コンデンスミルクとミルクの混ざったソース、それに加えてイチゴがいっぱいトッピングされているかき氷だ。思っていた以上の大きさに圧倒される。灼が頼んだのは、抹茶ときな粉と餡子がたっぷりとトッピングされているものだ。本当にこんな量食べれるの? と灼は首を傾げながらも、興味津々といった様子で目を輝かせて、行儀よく頂きますと手を合わせた。そして大きくて長いスプーンを使って綿のようにふわふわとした氷をすくった。なんでかき氷を食べているのかというと、ちょうどかき氷の特集をしていたテレビに向かって灼が「氷の塊に千円近く払うのがよく分からないなあ」とぼんやり呟いていたからだ。じゃあ食べてみようよ、と声をかければ、ええ? と困惑気味に眉を下げていたれども、絶対おいしいよと胸を張る私の強い推しに負けたのか、それとも興味が優ったのかわからないけれど、かき氷屋さんに行くことになった。ちなみに私も今まで一度たりともかき氷屋さんに行ったことはない。お祭りの屋台に出てるシンプルなものしか食べた事ないのである。お祭りの賑わいの中で食べるあのかき氷も私にとっては絶品なのだけれども、ちゃんとした今流行りのものも食べてみたかったのだ。
灼は質量のないふわふわの塊を口に入れた。どう? と聞けば、満足そうにニンマリと笑って、頭がキーンとしない、と頻りに感動している。私も食べようと長細いスプーンですくってそっと口に入れる。口の中ですっと溶けていくその氷はひんやりとしてるのに冷たすぎず心地良い涼しさを体に与えてくれる。灼の言った通り、遠慮なく口に放り込んでも頭が痛くならない。不思議だ。こんな量食べられるのかなと不安だったのに、あっという間に胃の中に収まっていく。もう残ってるのはあと少しで、溶けたシロップが下に溜まっている。灼もとっくに食べ終わっていて「いちごも一口ちょーだい」とねだってくる。容器をそのままずいっと前に差し出すと、灼はそうじゃなくてと首を振ってから口を大きくぱかっとあけて待っている。恥ずかしいよと渋っても、俺たちのこと誰も気にしてないよと灼はただ待っていた。多分私が折れない限り、ずっとこのまま待っているのだろう。周りの目を気にせず、ええいままよとそのままスプーンを差し出せば灼の方からぱくっと食いついてきた。まるで雛に餌をやる親鳥の気分だ。満足そうに「おいし」と頬を緩ませる姿に心がじわりと甘いもので満たされていく。私はこういう灼にものすごく弱いのだ。そんな灼のちょっとした仕草に絆される自分にちょっと悔しくなって「私も抹茶味食べたかったな」と唇を尖らせれば、「また来ればいーじゃん」とからり笑うので、そうだねと私もつられて笑った。