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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

鼓動が聞こえる

 「名前」
 耳元で囁かれたその声は私の鼓膜を揺さぶって、いとも容易くそのまま心臓へと潜り込む。
「どうしたの」
 問うても返事はない。何秒か何分か数えることをやめた頃になって灼はようやっと「しばらくこのままでいて」ともう一度囁いた。私は灼のいう通りじっとしている。背中から彼の鼓動が伝わる。灼の心臓はゆっくりと動いていて、そんな当たり前のことになんだか泣きそうになる。神様も生きてるんだ、とぽろりと零せば、お腹に回された腕の力が強くなる。こういう日もたまにはあってもいいのかもしれない。あまり弱みを見せない彼のこんな姿は貴重だ。灼の仕事のことは正直よくわからない。彼の痛みに触れることはできても、その痛みを知ることも理解することも、きっと私にはできないだろう。役不足だ。
 よしよし、と癖毛がちな彼の頭を撫でる。灼はぐりぐりと肩に頭を埋めた。その度に、男の人の割には柔らかい髪の毛が首筋に当たって擽ったい。「擽ったいなあ」笑えば、彼もふふと笑う。
「知ってる」
「知ってるならやめてよ」
「やめない」
「意地悪」
 今日は存分に彼のことを甘やかすことに決めた。
「今日ご飯作ろうか?」
「うん」
「灼、何食べたい?」
「オートサーバー食以外」
「選択肢多すぎるんだけど」
「名前が作ったものならなんでもいいよ」
 頭の中で今日の献立を考えた。この熱い腕に離される前に決めないとな。