静かな夜明け
懐かしい夢を見た。幼少期、ずっと真っ白な空間にいた頃の夢だ。目の前の一日を生きるのに精一杯で、日にちや曜日や時間の感覚がどんどん曖昧になって、季節すらもわからなかったあの頃。手足に繋げられた冷たいチューブのせいで体を自由に動かすこともままならず、布団に波打つシワの数をいつも目で追っていた。そんなとき、突如私の目の前に現れた男の子が灼だった。同い年くらいのその男の子はガラスを隔てた向こう側に立っていて、白いシーツの上に物のように横たわっている私を物珍しそうに見つめていた。その金色の瞳は、まるで夜空にぽっかりと浮かぶ満月のように静かに光っていて、思わず「キレイ」と口を動かすと、聞こえていないはずなのに、彼は大きな瞳をさらに大きくさせてから花が綻ぶように笑った。その笑顔は父が読み聞かせてくれた絵本の中に出てくる小さな神様のようだった。
それからときどき、ガラスを隔てて彼を見かけるようになった。彼も私と一緒でどこか悪いところがあって通院しているのかもしれないと思ったが、一向に子供専用のクリーン室に来る気配はなく、いつも透明な扉の外側にいた。誰かのお見舞いなのか、それとも受診なのかはわからない。けれどガラス越しで彼を見ることが私の唯一の楽しみになった。一日をただぼんやりと消費していく真っ白な世界が、少しずつ色づき始めたのは確かだった。