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「#寸止め」のBL小説を読む
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水玉模様

 雨が強くなったり、弱くなったり、外の天気はとても忙しそうだ。窓から外の景色をとっくりと眺めてみると、世界は一面灰色に染まっていて、どこもかしこも潤んでいた。空気を入れ替えたくてガレージに続く窓を開けてみたが、じっとりと湿気た空気だけが室内へ入り込んできて、あまり意味はなさそうだ。エアコンを冷房から除湿に切り替える。再びゆっくりと動き出す機械音を聞きながら、ハードカバーの本をめくった。
 少しだけ湿ってるように感じる紙は、いつもよりめくりにくい。けれど空気によって変わる気まぐれな紙の質感は好きだ。どこまで読んだのか目に見えてわかるところとか、ほのかに香る紙に印刷されたインクの匂いとか、次のページを捲るわくわく感。ぜんぶぜんぶ、電子の文字の世界では味わえないものばかりだ。紙の本なんて時代遅れだ、と周りからはよく言われるが、誰がなんと言おうと私は紙の本が好きだ。灼も「電書の方が楽じゃない?」と不思議そうに首を傾げるが、「こっちの方がいいんだ」と毎度主張していたらもう何も言わなくなった。
 この家には篤志さんが残した難しい紙の本がたくさんあって、一つずつそれらを制覇しているところである。それを読んだからと言って、その本の知識や内容が丸々身につくわけでもなく、読んだものから順番に記憶は上書きされて私の小さな海馬からはするすると抜けていくのだからあまり意味はないのかもしれない。私より遥かに知識に富んでいる灼に難しい話を振られても正直よくわからないことが多い。曖昧に肯いていると灼は大体肩を震わせて笑う。それでも聞いたことがあったり、その単語はどこかの本で見たなとわかるのは面白い。
「ねえ灼、虹がどうやってできるか知ってる?」
「うーん、一から説明して良いの? 虹が起こる大気現象の種類にもよるけどさ、」
「やっぱり遠慮しときます」
「諦めがはやいな〜」
「だって聞いたってわかんないもん」
「話振ってきたの名前じゃん」
 次のページを捲ろうとしたら、ふと、背中に重みがかかる。重いなあ、暑いなあ。抗議したら、ますます体重をかけられる。けれどその重さと暑さがどうにも心地良い。わたしも負けじと背中に体重をかける。すると重いなあと背中からやわらかな笑い声が上がった。雨の音と混ざって、部屋の中に静かに溶け込んでいく。