@花火
ドンドンとお腹にじんと響くような轟音を鳴らしながら、花火が次々と打ち上げられていく。舞子ちゃんの住んでるマンションのバルコニーから見る花火は絶景だ。手すりに両肘を置きその上からあごを乗せて、濃紺の空に眩く光る花火を眺めた。すぐとなりにいる舞子ちゃんの目の代わりに、どんな形の花火でどんな色をしているのか一つ一つ教えていると、「きれい」と美しく縁取られた唇からふいに洩れ出た。光を失った彼女のまぶたの裏側でも、閃光ように眩く輝いているのだろうか。そうだったら、すごく嬉しいな。心の中に小くてあたたかい火が灯っているような感情に包まれながら、私は彼女に視線を移した。彼女の大きな瞳に映る花火が輝きを放ちながら散っていく様子を眺めて「舞子ちゃんの方がずっときれいだよ」なんて臭いセリフを歌うように口にした。普段なら小っ恥ずかしくて言えないようなセリフも、今はなんの衒いもなくなめらかに紡げた。舞子ちゃんはぱちりと幾度かまたたいて「あら、本当?」と可愛らしく微笑んだ。「うん、本当にキレイ」
夜を漂う生ぬるい風が、川沿いの祭りの喧騒と一緒に頬を掠める。こんなにも世の中はたくさんのキレイであふれかえっているというのに、灼と炯くんはお仕事でここにはいない。同じ様なことを考えていたらしい舞子ちゃんも「勿体無いわね」と呟いた。でも私と舞子ちゃんは、彼らが一生懸命に今働いているからこそ、こうやってキレイをたっぷりと堪能できることを知っている。だから、ほんのちょびっとだけ、彼らにお裾分けするために煌めく花火を端末に収める。そして体を張ってお仕事をしているであろう灼と炯くんに送った。
私たちが感じている世の中のキレイが、彼らに少しでも届きますように。最後の一瞬まで見逃すことなく、舞子ちゃんと花火を眺めた。