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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ずるい

 朝起きて鏡を見たら、口元におおきなニキビがぽつんとできていた。なんでこんなところに。顔を洗って歯を磨く。顔にある赤い点が鏡に映り込むたびに、どうしても気になって指で触ってしまう。これ、灼に見られるのは恥ずかしいからイヤだな。朝から憂鬱な気分だ。
「おはよー」
 灼が寝ぼけ眼を擦りながら洗面所へやってきた。「おはよ」と返しつつ口元をなんとなく手で隠す。顔を洗い終えた灼と視線がばちりと合ったけど、すぐ逸らしてそそくさと立ち去って、朝ごはんの準備にとりかかる。ティーバックをそれぞれのマグカップに入れてお湯を注ぐ。そして野菜を手でちぎって上から生ハムを簡単に盛り付けただけのサラダにヨーグルトをテーブルに並べる。それから灼が買いだめしている菓子パンを袋からとり出し、電子レンジで三十秒温め、さらにオーブントースターで数分焼く。ちょっと手間はかかるけど、この一手間で美味しくなるのだから、この工程は外せない。ふーんふんと気分良く鼻唄を口ずさみながらパンが焼けるのを待っていたら、いつのまにか灼が真後ろにいた。驚いて「わっ」と声が出る。慌てて口元に手を添えて、「なにかな?」と問えば「んんー?」首を傾げて私の顔を覗き込むようにしてじっくりと見た。灼はにこにこと笑みを浮かべている。
「さっきからなに隠してるの?」
 ちょっと揶揄いを含んだ声音。私がどれだけ一生懸命に胸中を隠したところで、灼は簡単に見透かしてしまうだろうな。あきらめて、顔から手を離す。見られたくなかったけれど、ずっと隠しているのも不自然だろう。そんなこと、私が一番よくわかってる。
「触ったら余計に悪化するじゃん。ダメだよ」
 また顔に触れようとした指を絡め取られて、真面目な声で叱られた。そんなこと滅多にないから体が竦んでしまう。ごめんなさい、と小さな声で言えば「わかったならいいよ」と骨張った手が優しく頭を混ぜる。そして灼はそのまま「名前、かわいい」と付け足した。その言葉の意味を理解した瞬間、頬に熱が一気に灯る。ああもう、灼はずるい。ずるいなあ。何気ないそんなたった一言で、私はいとも容易く心を揺さぶられて、嬉しさで肌がじくりとあたたまるのだから。誤魔化すように「朝ごはん早く食べないと、遅刻しちゃうよ!」と急かしてみたけれど、あまり意味はなく、灼はそんな私にくすくすと笑いながら「はーい」と返事をするだけ。今はニキビよりも火照り切った頬を見られることの方が、恥ずかしいや。