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 95 宝物の在処

 普段は皇国で仕事をして、週末にはいつもここ浅草に戻ってきている。皇国にはたくさんのキレイなモノで溢れかえってキラキラと輝いているというのに、浅草の雑多で喧騒にまみれた空気がなんだかんだで一番落ち着くのだ。取り繕わずにそのままの自分でいられる気がして心が安らぐし、それにここには…、とさらに頭の中で理由をあげようとすれば、「春」とぶっきらぼうに後ろから呼びかけられる。聞き慣れた声に振り向くと、沢山の風呂敷の包みを抱えた紅丸がいた。町のみんなに話しかけられて、曖昧に返事をしているうちに持って帰らされたのだろう。いらねえ、とか言いつつも無理矢理持たされると断れないタチなのだ。顔に似合わず心根はとても優しく懐の深い彼らしいその様子に、声を出さずに肩を震わせて小さく笑うと、彼はバツが悪そうに顔を顰める。そう、浅草には彼がいるのだ。だからわたしはいつだってここへ帰ってきてしまう。もしも、指先から煙が出て、全身真っ赤な炎に包まれる日が来てしまったら、真っ先に彼に胸を差し貫いてもらい、灰になりたいのだ。そんなことを言えば、たちまち不機嫌になってしまうだろうから実際に口にはしないけれど、わたしの願いはいつもここにある。少しだけ上にある彼の顔を見上げる。視線は一向に合わないけれど、自然とわたしの歩幅に合わせてゆったりとした足取りになるのは昔から変わらない。気がつくと、わたしの家の前まで来ていた。じゃあまた、と手を振ってそのまま家に入っても良かったが、彼のとなりから離れるのが少しだけ惜しく感じた。「ねえ、紅」「やっぱり、わたしはここが好きだな」唐突に紡いだわたしの言葉に驚くこともなく、彼はただ静かに「そうか」と相槌を打った。もうすっかり夜も深くなっているというのに、町には橙色の提灯がたくさん散らばっていて、夜の風に乗って陽気な笑い声まで聞こえてくる。帰るにはまだ早い。「荷物、少し持とうか?」「必要ねえよ」「そうじゃなくて、」手に持ってる荷物を取り上げて、彼の指先に触れる。分厚い皮膚の下には温かい血が通っている。わたしの心臓を貫くかもしれないその温もりを、忘れてしまわないように。「繋ぎたいなあって」そのままもう少し騒がしい町の中を歩く。「揶揄われても知らねぇぞ」と言いながらも、指先にはしっかりと力が込められていた。