11 不安定
さっきから隣の男に落ち着きがない。足はイライラと貧乏揺すりをしているし、冷静にスコアブックを眺めているかと思いきや視線はちらちらと教室のドアに向けられていた。こういうときの御幸はちょっと面白いからどうしてもからかいたくなる。
「少しくらい落ち着けよ」
その様子を見兼ねて言うと御幸は不機嫌に顔をしかめて口をへの字に曲げた。
「落ち着いていられるかっつーの」
成瀬が男子生徒に呼び出されたらしいと聞いてからずっとこの調子だった。御幸は成瀬に「別に行かなくてもいいだろ」と腕を掴んで止めていたけど、成瀬は小さく笑ってから「行ってくるよ。呼び出されたからって告白とは限らないでしょ」とまるで子供に言い聞かせるようにゆったりと言って御幸の手をそっとほどき屋上に向かった。まあ俺も御幸と同じ意見で、その呼び出しの件に関しては告白だとは思うけれども。相手からの好意にとても鈍感だが、それでもとてもよくできた彼女だと思う。
「ま、お前に成瀬は勿体ねえと思うけどな」
「わかってる」
不貞腐れたように相槌をうって頬杖をついた。そんな御幸にここぞと俺は笑ってやる。
普段人を食ったようなふてぶてしい笑みを浮かべているが、成瀬が絡む瞬間に見せる不安定で余裕のない御幸がなんだかんだで気に入っているのである。