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 08泣き虫

 「徹」
 久々に呼ばれた声に顔を向けると、春がいた。中学の卒業式以来だというのに、彼女の姿は何一つ変わっていなかった。真っ黒な髪に、それと同じ色をしたつり上がった意思の強そうな瞳を携えていた。それは大嫌いな後輩の遺伝子がそのまま流れ込んでいた。
「泣き虫なのは変わってないね、徹」
「うるさいよ。そういう春ちゃんも泣いてるじゃんか」
「目ェついてる? 徹の涙が勝手にこっちに移動してきただけでしょ」
「真剣な顔でよくそうぬけぬけと言えるよね」
「そんなぐっしゃぐしゃの顔で言われてもなあ」
 ほんと、変わってない。そういって笑う顔は過去の記憶を甦らせるには十分だった。ずっと隣にいたときの風景が瞼の裏に鮮やかに映った。
 そうだ、あのときも、二人こうやって泣いていたっけ。丸くて綺麗な形をした頭を撫でながら、涙がぼたぼた溢れ落ちていった。俺は一つ息を吸ってから訊ねた。
「まださ、俺のこと好き?」
「愚問だね」