×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


 18 強引

 「ねえ隊長、これは一体どういうことですか」
 何事にも聡く、ちょっとやそっとじゃ驚かない成瀬が、珍しく本当にわからないという調子で問うた。沖田は自然と口の端が持ち上がった。さぞ悪人面を晒していることだろうなあと他人事のように思った。
「わからねえのかィ?」
「わからない、というよりは、わかりたくない、が正しいですね」
「至極わかりやすい状況だろィ」
 淡々と云うと、成瀬は沖田を鋭く睨み付けた。けれども強気な表情とは裏腹に、今すぐにでも目尻から泪が零れ落ちそうな脅えが伝わってきて、思わず喉の奥から笑いが込み上げてしまう。今更そんな顔したってもう遅いということがなぜわからないのだろう。
「あーあ、綺麗な顔がもったいねェや」
「隊長、わたしはなんで押し倒されているんですか」
「餓鬼じゃねェんだ、それくらい自分で考えなァ」
 成瀬の目に沖田の行動は滑稽に映った。今までだって、これからだって、こんな関係に縺れることはないだろうと思っていた。背中を安心して預けられるような同士だと信じていた。それが今、崩れようとしている。
「お前はただわからない振りをしてるだけでさァ」
「……こんなことしてもわたしは変わらないし、意味はない、です」
 抵抗しようともがく腕と脚を力を込めて押さえつけると、成瀬の顔が苦痛に歪み、喉の奥から小さな悲鳴が漏れ出た。それでも力を緩めてやることはない。
「わかってらァ」
「じゃあ、離してください」
「全力で逃げりゃあいい話だろィ」
「隊長相手にそんなことできるわけないじゃないですか」
「はっ、なら諦めるんですねィ」
 いつだって土方を映すその瞳は、今は沖田にだけ向けられていた。あの男の心はもう誰のものにもならないというのに、成瀬はそれでもあの男をひたすらに想い続けていた。不毛な恋。一生叶わない恋。沖田は成瀬を見ていると、まるで鏡の中の自分を見ているようだった。だからその鏡に少し罅を入れて、自分を映さないようにしたいだけに過ぎない。
 固く閉ざされた唇を無理矢理抉じ開けて深く侵入する。口内を犯していくとガリっと嫌な音をたてて血の味が瞬く間に広まった。それでも絡めて、嬲って、そして離す時には赤い糸が引いた。他人から吹き出す血は嫌悪を感じすぐに拭ってしまうけれども、成瀬から引き出されたこの赤は、今まで見た中で一番綺麗だった。