19 早口言葉
過去の話。
今と少しも変わらないわがままな鳴が珍しく切羽詰まった声で後ろから呼び止めた。振り向くと顔を真っ赤にさせた鳴がいて、思わずどうしたの? と駆け寄った。
「俺さ、――――」
顔を真っ赤にしてものすごい早口で言われた言葉は聞き取れなかった。
「え、なんて?」
聞き返すとますます顔を赤くさせる。え、なにごと? 鳴がなぜこんなにも赤くなるのかわからないわたしは、ただただ首を捻るばかり。その様子を見かねたらしい鳴は「だーかーらー、」と声を荒げたと思ったらきゅっと口をつぐんだ。そして意を決したように大きく息を吸い込んで再び口を開いた。
「お前のこと、好きなんだってば!」
人がたくさん行き交う廊下に響き渡るほどの大きな声。わんわんと谺する「好きなんだってば」の言葉。突然の出来事に固まるわたし。周りからの一斉の視線。この場面で何より普段通りなのは肩で息をし、わたしを睨み付けている鳴だけだ。告白されているはずなのになんだか怒られているみたいだ。なにより勢いと圧がすごい。それに気圧されるようにわたしは「はあ」と間抜けな返事をし、それを了承の意と捉えた鳴は「よしっ」と小さくガッツポーズをしたのだった。
「あ〜、あのときの鳴は格別に可愛かったなあ…」
過去のことを思い出して思わず呟けば、目の前にいた鳴が怪訝そうに顔をしかめた。かわいいお顔が台無しである。
「はあ? いきなりなに?!」
お昼休み中にまだまだ初々しい一年生だと思われる告白現場に遭遇して過去のことを思い出してた、なんてことはいう必要ないだろう。にやにやと笑みを浮かべていると、原田さんが興味津々といった様子で話に混じった。
「お、なんだ? その面白そうな話俺にも聞かせろよ」
「聞きたいですか?」
「興味がある」
「わかりました。昔の鳴の話なんですけど、」
「ちょ、バカっ! なに話す気なんだよ!」
「ああ、昔の鳴の恥ずかしくてめちゃくちゃかわいい話」
「へえ、それはそれはぜひとも聞かせてくれよ。こいつの弱味をもっと知っておきたいんでな」
「原田さんは知らなくていいからッ! もっと、ってことはもう既に弱味を握ってるってわけ?」
「弱いとこだらけじゃねぇか」
「はぁ? こんなエース様捕まえといてよく言うよ!」
「こんな扱いづらいエース様なかなかいないですよねぇ?」
「同感だ」
「ちょっとうるさいよ!」