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 20 まぶしい

 寒色しかないこの土地の中で、降谷くんだけが暖色の色を纏っていた。降谷くんの輪郭からほのかに漂う赤とか黄とか橙の色は、この場所ではとても異質だった。だからなのかな。彼を見ると、目を細めてしまうんだよ。眩しくて、輝かしくて、わたしに背を向けて常に前を行く彼が光の中に溶け込んでいくのをただ見るしかなす術のないわたしに対して、なにを思ったんだろう。そんなこと、わたしが知ることはきっとないのだろうね。

 炬燵の上に、ぽつりと一つみかんがおいてあった。いつの日か、真っ白に染め上げられた広大なグラウンドで一人佇んでいた姿が頭の中をかすめて、ふいに泣きそうになった。あのとき、降谷くんの裾を掴んでさみしい? と問うたら、一点の曇りのない眼差しで別にって答えた。わたしはきっと寂しいって答えを無意識に待っていたのだと思う。
 そんな昔の出来事に思考を埋めながらみかんを剥いていく。あたためられた炬燵の熱におかされてみかんは生ぬるくなっていた。この土地ではみかんのような暖色は、わたしの瞳には少々眩しくて、それと同時に眩しい光の中に溶け込んだ彼を思い出して苦々しくてすっぱいものがじわりと胸に広がる。

『春に、甲子園行く。春も来て』

 幾度も目でなぞった文字。口の中で飴玉を転がすように呟いた文字。小さな四角い画面に浮き上がったそれはまばゆく、あの時から彼がずっと見ていたものなのだ。
 複雑な気持ちで窓の外を見る。しんしんと、雪が降っていた。この雪がゆっくりと融け出す頃には、彼の姿をぼうっと見つめて、遠くなったと目を細めるのだろう。あの大舞台で、彼は一体なにを見つけるのだろうか。さらなる光を背負って、またわたしの知らない苦しい白い世界へとひとりで深く潜り込んでいってしまうのだろうか。
 ふうと息を吐く。白色を見たあと橙色を見て、やはり明るいなあ眩しいなあとそのまままぶたの裏にこびりつかないように急いでみかんを口に運んだ。