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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -


 25 残り物

 残り物には福があるっていいますよね

 唐突に、雑誌から顔を上げた彼はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて言った。わたしの反応を窺うようなその言葉に乗ってやる必要なんてないのに馬鹿で単純なわたしは簡単に乗ってしまう。

 残り物?
 そう、残り物
 残り物、って言われていい気はしないんだけれど

 思わず顔を顰めると彼はふはっと口の中の空気を吐き出すようにして笑った。何がおかしいのだろうか。ちっとも笑えないよ。
 わたしはそっぽを向いて背中を丸めて膝に顔を埋める。
 本当にこういうところ大人げないなあと思うのにやめられない。六つも年が離れているのに、わたしは彼の手のひらの上で転がされている。

 そんな残り物の恋人の犬飼くんはどう? 福、ちゃんとあったの?

 年上の余裕を保っていますよ、みたいな言い回しがしたかったのだけれど思い浮かばず、出てきた言葉はなんとも幼稚なものだった。
 どう足掻いても埋まらない年の差はわたしの中でちょっとしたコンプレックスだ。そのことを知っているはずなのに、わざとそこをつついてきた彼はとても意地悪だ。

 うん、あった。だからおれ、すっごい幸せ。春さんの初めて全部貰えるんだもん

 どうせ鼻先で笑われるか、バカにされるか。そう思っていたのに、返ってきた答えは予想を遥かに越えていた。呆気にとられてぽかりと口が開く。だって、そう言った彼の顔はいつもの余裕なんて全くなくて、自分の言葉に照れて恥ずかしそうに目を泳がせていたのだ。珍しいこともあるもんだ。ふっと笑ってしまう。肩が揺れる。それが気に障ったのか、彼はムッと唇を尖らせた。高校生らしい彼の姿にわたしはますます笑みが深くなるばかりである。