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 34 スキップ

 「今度ちょっと勉強教えてほしいとこあんだけど、時間もらってもいい?」
 御幸くんのその言葉に、わたしはもちろん即答でイエスと答えた。むしろ時間どころか、身も心も何もかもを捧げます! と言いたいのを喉元でぐっと押し留め「全然いいよ〜」と当たり障りなく返事をした。
 よく我慢した、偉いよ、わたし。
 胸の内でそんな自分をめちゃくちゃ褒め称え、ガッツポーズを決めた。ほっておくとだらしなくゆるんでいく頬の肉をぐっと引き締め、すぐ本題に入る。
「いつ教えたらいい?」
「明後日。ちょうど部活もその日ねえからさ。主に古文と英語を中心に教えてくれると助かる」
「わかった! まかせてッッ!!」
「おー、よろしく」
 御幸くんはわたしの気合いの入った返答に笑うのを堪えるようにそう言って、じゃあな、と手を軽く振り部活へと向かった。その後ろ姿もかっこいい。完璧だ。遠ざかる背中を最後まで見送ったあと、つい気分が舞い上がって、誰もいない廊下でスキップをした。両手でスカートの裾をつまんで、るんらるんらと鼻唄を口ずさみながら足を動かす。その度にスカートが揺れ動く。わたしの浮かれきった思考もゆらゆら揺れ動く。
 今から四十八時間後には、図書室で隣に座って勉強をしているのだろうか。わたしは左利きで、彼は右利きだ。彼の右側に座れば、きっと腕が合わさる瞬間もあるのだろうな。そこでさりげないボディタッチを試みるのもいいかもしれない。かなり計画的だけれど。ふふふ。
「ヒャッハ、お前、それスキップのつもりか? ツーステップ擬きだろ」
「は?! 倉持?!」
 誰もいないと思っていた廊下には倉持がいた。浮かれた気分で明後日に起こるかもしれない妄想をスキップしながら楽しんでいた様子を一部始終見ていたらしい。彼は腹を抱えてひぃひぃとひきつらせながら笑っていた。頭にカチンときたから、とりあえず蹴っ飛ばしといた。それでもゲラゲラと笑いが止まらない彼に、開き直ったわたしは見せつけるようにスキップを披露するのだった。
「だからスキップじゃねえだろ、それは 」
「スキップだから!」