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 52 二日酔い

 起きた瞬間に頭がずしりと重々しく痛む。そこから追い討ちのように、昨日やらかしてしまった様々な悪行の断片が頭の中を跋扈し、歯の隙間からうううと声にならない後悔の呻きが洩れた。こんなに後悔するのならば、いっそのこと全部忘れてしまえればよかったのに。わたしのバカ。
 そろりと目を開ける。見慣れない天井、きちんと整理整頓がなされている部屋。予想通り、今いる場所は自分の家ではなかった。布団に顔を潜り込ませると、自分とは違うやさしくて安心できる香りがした。
「体調はどうですか?」
 真後ろから降る穏やかな声音に、罪悪感が瞬く間に広がっていく。そのやさしさが今は棘となってちくちくと痛い。
「……ごめん、赤葦くん。昨日の真夜中、酷かったよね…」
 寝返りを打つと、目の前に赤葦くんの顔があった。かなりの量のお酒を呑んだので、今のわたしは相当お酒臭いはずだ。案の定、生きる奈良漬みたいなにおいがします、と眉をひそめた。
「まあ、そうですね。とても荒れてましたね」
「うあああやめてー、本当にごめんなさい…反省してます……」
「覚えてるんですか?」
「うん、全部はっきりと覚えてる。飲み会の途中でべろんべろんになったのも、赤葦くんが迎えに来てくれて、そのままおぶってお家まで連れてきてくれたのも、そのあと…」
「着いた瞬間、俺の背中で吐きましたね」
「……」
「そのあともトイレで吐き続けてました」
「…………めんぼくない」
「それからひとりでずっと泣いて、泣きつかれたのかそのまま寝ました。あ、メイクはそのままにして寝ると肌が荒れるってこの前言っていたので、前に忘れていったメイク落としシートを借りて落としました。あと服が吐瀉物で汚れていたので、服も着替えさせました」
「もう、返す言葉もございません。こんなに迷惑かけて……」
「なにを今更…。こんなこといつものことじゃないですか」
「い、いつもではないよ!」
 う、頭痛い。自分で出した声が頭の中でぐわんと反響して、思わず指をこめかみに押し付ける。情けないやらやるせないやら。しかもわたしのほうが年は上なのに。それなのによくこんな彼女と付き合ってられるなあと常々感心する。もしも、わたしが逆の立場だったら絶対に別れるだろう。それをそのままに言うと「俺は、酔ってる春さんも、二日酔いで弱ってる春さんも全部好きなので問題ありません」と、わたしの頬を包み込むようにてのひらで覆った。顔が熱くなる。唐突にそんなこと言われて照れないほうがどうかしてる。二日酔いがますます酷くなりそうだ。
「赤葦くんってほんと女の趣味悪いよね」
「じゃあそんな俺を好きな春さんは、もっと趣味悪いですね」