55 舌
ちろちろとバニラアイスをなめとる赤い舌から目が離せなくなった。それを視界に入れてしまった瞬間に、思わず情事の最中の春を思い出してしまい、下腹部にぐっと力が入ったのだった。これはとてもまずい。
おれの不躾な視線に気付いた春はどうしたの? と不思議そうに首を傾げる。いま頭に浮かんだことを素直に語っても春との関係が拗れることはきっとない。サイドエフェクトの有効活用ってやつだ。
「なんか、エロいなあって思いながら見てた」
春はぱちりと目を丸め、アイスとおれを交互に見た。そしてみるみる頬を紅潮させた。
うわあ、わかりやすい。顔だけじゃなくて、耳や首筋まで真っ赤だ。
食べかけの棒アイスをおれに押し付けて、ふんっとそっぽを向いた。
「ほんと、迅のバカッ!」
「ごめんごめん」
「気持ちがこもってない!」
怒っているのはわかるけれども、ちょっと尖らせてる唇とか、潤んでいる瞳とか、膨れた頬とか、その反応はなんていうか逆にそそると言いますか……うん、悪くない。どうしたって口もとが自然とゆるんでしまう。
押し付けられた溶けかけのアイスを舐めながら、こっちも必死なんだけどな、と思う。勝手に熱を持ち反応してしまう身体を、全身全霊をかけて抑え込まなくてはならない男の身にもなってほしいものだ。まあそれをわかってて言ったおれの自業自得なんだけど。