81 響き合う
1
席替えをしたら、女子たちからの人気が何気に高い月島くんの後ろの席になった。友人たちから「いいなあ」なんて羨望の眼差しで見られたけれども、今まで必要最低限の会話しかしたことなかったので、苦笑いを浮かべるしかなかった。わたしとは別の世界で生きる人だから、きっと交わることなんてないのだろうなあ。
2
前の席の月島くんは身長が高い。故に、後ろの席のわたしは自然と黒板を見るときに少し体を傾けて前を見る。けれどもそれも別に苦ではない。だって、すっと伸びた月島くんのうなじが見えるから。そのうなじはとても白くて綺麗だ。男性に対しては失礼なのかもしれないけれど、色っぽく見える。まあ唯一、月島くんの後ろで大変なことは、ときどきふいにこくりと落ちる頭に、笑いを堪えることぐらいかな。きっと部活が大変なんだろう。常に涼しい顔をしている彼が一生懸命汗水垂らして練習に打ち込む姿はあまり想像できないけれども、きっと彼なりのやり方で頑張っているのだろうな、と思うと自然と笑みが浮かんだ。
3
「ねえ」十五分休憩中、唐突に話しかけられた。月島くんが話しかけるなんて珍しいこともあるもんだと思っていたら「成瀬さんの視線が痛い」と実に不愉快そうに顔を歪めた。「首筋にすっごい視線を感じる」「…気のせいでは?」「すっとぼけるの下手だね」初めてちゃんと喋るのに、思った感情を隠そうともしない正直すぎる月島くんはなんだかとても面白い。わたしとは別次元に住まう人物だと思っていたけれども、話してみると親しみが勝手に湧いてくる。笑いながら「なんだ、バレてたんだ」と肩をすくめると、「キミってちょっと変だよね」とまるで不思議な生き物を見たようにメガネの奥の瞳を丸めた。「月島くん、それは失礼すぎやしない?」「ドーモ」「褒めてない」「知ってるケド」「…振り向いて話しかけてくれたついでにさ、次当たるここの問題わかんないから教えてよ」「考えたらわかるでしょ」「わかんなかったから聞いてんじゃん。あ、ぐんぐんヨーグルトひとつつける」「好きじゃないから却下」「そんな殺生な」「自力で頑張って」「鬼だ」どうってことないやりとり。ただ脳の表面で浮かんだ言葉をだらだらと零すだけの会話。それなのに、この胸に広がる淡くて甘い感情は、一体なんなのだろう。
4
「ツッキー」「なに」「最近成瀬さんと仲いいよね。よく喋ってるし」「別にそうでもないよ、ただの暇つぶし」「へえ。でもツッキーが女子と仲良さげに喋ってるのってすごい珍しいよね。楽しそうだし」「…山口、うるさい」「ごめん、ツッキー」