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 74 似た者同士
 
 呼び出しをくらった。犯人はわかっている。100パーセント、成宮鳴の非公式なファンクラブかなんなのかよくわからない団体の女子たちだ。
 何回漏れ出たかわからないため息を再びつく。友人が「大丈夫?」と声をかけてくれたし、「なんならついて行こうか」なんて心配してくれたけれども丁重に御断りした。私はそんなにヤワではないからだ。さすがに、この呼び出しの元凶である本人に「俺ついていかなくても春なら平気だよね」と言われた時は、おいおい守ってくれよ、と文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、万が一にでも、暴力沙汰になってしまい、彼の体のどこかに怪我でもしたら大事だし、これが原因で試合出場停止にでもなったら野球部の面々に合わせる顔がない。というかマネージャー失格である。なので、平気平気じゃあ行ってきまーす、と応えてしまったのである。まあこれが初めてのお呼び出しでもないので、緊張することは何ひとつなかった。

 呼び出された場所に着いた。視聴覚室の前というそれはそれはベタな場所なのだが、確かに人通りは少ないので、こういう局面にはもってこいの場所だ。案の定、女子4人が既に待ち構えていた。皆が一斉にこちらを見据える。よく見ると試合がある度にいつも見かける顔ぶれで、メイクを綺麗に施し、きちんと整えられた身なりは、いかにも男受けが良さそうだ。きっと彼女たちはモテる部類だ。残念ながら、女子力とは縁遠い私はそんなところにお金をわざわざかけたことはない。部活でボール拾いや草むしりでマウンドを駆け回るとメイクなんて汗で簡単に落ちてしまうから意味がないのだ。
 一人が代表で出てきて真っ赤に染めた唇を歪ませながら口を開いた。うわあ、顔が醜く歪んでいても美人は美人なんだなあ。
「別れてよ。成宮くんと釣りあってると思ってるの?」
 ストレートな物言いだ。はあ、と生温い相槌を打つ。勿論、答える言葉は決まっている。
「そう言われて別れるわけないじゃん」
 間髪入れずに応えると、目の前の彼女はぎゅっと眉を寄せて、唇をわなわなと震わせた。次にぶつける言葉が出てこないのだろう。周りの女の子たちも同じような反応をしている。思ってたよりか弱くて、可愛らしい子達だ。私が虐めてるような気さえしてきた。腑に落ちないけれども。
「あのねえ、言わせてもらうけど、幼馴染だし中学から付き合ってるからこの学校では誰よりも鳴のこと知ってるのね。だからこう言うの何回目かわからないほど経験してるわけね、ムカつくことにあいつモテるから。それに実際鳴と付き合ってみたらわかると思うけどさ、すんごいあいつ面倒臭いからね?! 都のプリンスとか呼ばれてるけど、超ワガママ自己中プリンスの間違いだから! 原田先輩と私がどれだけ苦労してるか知らないでしょ? 周りを振り回して翻弄させて自由気ままに行動してそれに毎回付き合わされてもう十数年、もう切っても切れない縁があるの。だから別れられないし、きっともう私しか付き合えないんだよ、鳴は。言ってる意味わかる?」
 彼女たちは私に強い言葉をガツンとぶつけることで、怯むと思っていたのだろう。そんなわけないのに。思わず唇の隙間から呆れた息が漏れ出る。
「ってことで、鳴のことは諦めて。あなたたち可愛いからきっと鳴より素敵な彼氏見つかるよ、それは私が保証する。あ、そろそろチャイムなるから教室戻るね。もうこれからはさ、こんなことのために時間割くのはやめよう、お互いに時間の無駄だから」
 じゃあバイバイ、手を軽く振ってこの場から颯爽と去る。戦意喪失といった様子で立ち尽くす彼女たちは見ない振りをしておいた。さすがに言い過ぎたかな、と少しばかり自責の念を抱いたけれど、これくらい言わなければまたどうせ同じことを繰り返すに違いなかった。今までの経験で知っている。
 欠伸を一つして、廊下の角を曲がる。すると「おかえり」と元凶である彼が爽やかな笑顔で待っていた。思わず唇を尖らせてしまう。
「鳴、全部聞いてたでしょ」
「まあね」
 悪びれもなく、両手を頭の後ろで組んでのんびりと言った。
「一応何かあった時のためにいといたほうがいいかなって、まあ出る幕なかったけどさ。さすが俺の彼女、相変わらず性格悪いよねー」
「そんなの、私が一番知ってるもん」
 性格が悪いのなんて百も承知である。彼女たちに鳴のこと散々扱き下ろしたが、野球に対してはいつも真っ直ぐで真摯であることを知っている。だからこそ、周りを翻弄する力があるわけだし、皆がそのやる気に引っ張られるのだ。でもそんなこと彼女たちは知らなくていい。私だけが知ってればいい。
「俺の彼女はそうじゃなくっちゃ務まらないよ。それに春を手放すなんてそんなことするわけないじゃん」
 にししと笑って、廊下の彼女たちに聞こえるようにそう言う鳴も、私と似てすごく性格が悪い。でもこんなときぐらいは「私もだよ」って、言ってもいいよね。