48 狙い撃ち
ドン、ドン、ドン、ね、ら、い、うちー
カキーン、とバットがボールを跳ね返して吸い込まれるようにしてボールはスタンドまで運ばれた。ピッチャーは茫然と立ち尽くしているのに反して、バッターはニヤリと笑ってホームをゆったりと走り抜けた。
その時、わたしは思い出していた。しつこく試合を観に来いと言われたときのことを。野球のルールは確かに一応知ってはいるけど、興味がないから観戦しないよ、と強く突っぱねると、
「今度の公式戦でホームラン打ってやるから絶対観に来いよ、成瀬」
自信満々に言うではないか。何だ、この男は。どれだけの自信があったらそんなことが言えるの。ホームランってそんな簡単に打てるもんなの。隣の席にいる倉持も呆れたように御幸を見ているのが気配でわかる。
「ホームランなんて簡単に打てないでしょ」
「さーて、どうかな。球種を絞ってうまいこと当てればいけんじゃね」
「そう言っときながら三振したら今の発言を周りに言いふらして指差して大声で笑ってあげるね」
「はっはっはっ、まあ三振しねえように頑張るわ」
そんな言葉に踊らされてわざわざここまでやってきたのだけど、まさか現実になるなんて。有言実行とはこういうことか。
大勢の中に溶け込んでいるわたしの姿なんて御幸から見えていないはずなのに、なんとなく目があったような気がして、どきりと心臓が跳ね上がる。
狙い撃ちされたのはピッチャーの投げたボールなのか、わたしの心臓なのか。今となってはどっちなのかわからない。
後から追い討ちのように「見にきてくれてありがとな。どうだったよ、彼氏のホームラン姿は」とメールが来ていた。わたしは枕に顔を埋めて悶々としていた。かっこよすぎだよ、御幸一也。
心臓のまんなかを撃ち抜く彼