86 初日の出
「初日の出、ってみたことないなあ」
何気なくつけたテレビは新年を迎えたそれぞれの国の風景が映し出されている。
「アジアの一部の地域ではそういった習慣があるみたいですね」
日本に小さい頃住んでいたという彼の横顔は、日本と結び付く面影はひとつも見当たらない。どこか浮き世離れした容姿は、皆が信仰してやまない神のようにも見える。
「キレイなのかな、初日の出。思わず感嘆の息を吐き出しちゃうくらいに。なんだかうまく想像ができないや」
圧倒的自然の前に、ちっぽけな人間はその美しさに堪えられるのだろうか。彼を最初この目でみたときと似た感覚なのかもしれない。
「じゃあ来年は一緒に見に行きましょうか」
降って湧いた提案にまばたきを繰り返した。
「ここ、アジアじゃないよ?」
「ええ、知ってますよ」
「仕事はどうするの?」
ジョルノはじわりと唇の端を持ち上げた。とても悪い笑みだ。
「仕事はミスタとかに頼めばいいでしょう」
「うわあ、ボスの職権濫用だ」
「たまにはいいでしょう、ボスのわがままをきくのも部下の仕事です」
「ほんとに?」
「ええ、もう今から空けときますから、春も空けといてくださいね」
わかった、と肯き返すと、彼は眉を下げて微笑んだ。ギャングという職業柄、お互いいつ死ぬかわからない身だからか、仕事以外で未来の約束は殆どしない。けれど、この約束は果たしたいと思った。神に近い彼と一緒に、さらに圧倒的な大きな存在をこの目で見てみたいと思った。
あと一年は簡単に死ねないね、と笑うと、そんなの許しませんから、と耳元で囁かれた。