28 理想と現実
将来は、白馬が似合うかっこいい王子様と結婚して、お城みたいな家に住む。
そんなよくある物語のきらきらしたプリンセスたちに憧れて、小さい頃はよく言っていた気がする。
「なに?」
わたしの視線に気づいた彼は首を傾げた。高校の時はもう少し鋭さのあった目元は、今では随分やわらいでいる。
「んー、白馬に乗ってる王子様な感じの鉄朗を想像してね、似合わないなあって笑ってた」
「はあ? 似合うだろ、白馬」
「似合わなさすぎて爆笑レベルだよ」
「となると、春はお姫様になるわけだ。姫っぽい衣装か…馬子にも衣装?」
「えー? ウェディングドレス姿見て涙ぐんでた人はどこの誰ですかね?」
「あれは別。そういう春も俺の白スーツ姿にはしゃいでただろ」
「それと白馬は別でしょ」
「あー、でも姫の衣装より侍女とかの衣装のがグッとくるものがある。今妄想してみたけど春最高だった」
「鉄朗の好みは聞いてない。あと変な妄想は止めて」
「えー? 妄想はただでしょ」
彼はふと言葉をとぎらせて、考えるようにしながらまた口を開いた。
「でも昔からだけど、普通に春のジャージ姿好みだったな。かっこよく着こなす系女子っていうの? 女子女子してない感じ」
たしかに、昔そんなことを言われてた気がする。あの頃、わたしたちは常にジャージを身に纏い、体育館の中を汗を垂らしながら右往左往していた。まだ青い青い頃。仲間とぶつかりながら止まることを知らずに、毎日をひたすらにがむしゃらに進んでいたあの頃。恋と愛の区別もつかず、目の前のことで一生懸命だった。その頃と比べたら、ちょっぴり大人になったのかもしれない。一緒になることで、小さな幸せを一つずつ見つけられるようになった。
「お互いずっとジャージだったよね」
「ジャージだった時間と制服だった時間、どっちで過ごしてた方が長かったと思う?」
「合宿とか含めたら絶対にジャージでしょ」
「だな」
とりとめもない会話をしながら家路を辿る。前に大きくのびたふたつの影の間にはビニール袋がぶらりと垂れ下がっていて、それは歩く度に揺れ動き、安っぽい音が鳴る。その中には、特売のお肉とか野菜とか駄菓子がいっぱいに入っていた。豪華で高い食事より、家に帰ってその安い食材をふたりで分け合けあって食べるのが、身の丈にあった、等身大のわたしたちの幸せだ。
「ねえ、今日は柚子ポンにする? それともゴマだれにする?」
「どっちも。あ、やっぱ生卵つけだれで」
「それ最高。刻みネギもそこに入れよ」
「ナイスアイディア」