45 雷
ピカッ、ゴロゴロゴロ。
空を真っ二つに裂いてしまうような閃光が瞬いた。そして数秒もしないうちに、脳天に突き刺さるような雷鳴が鳴り響き、教室が暗くなった。停電だ。小学生の理科の授業で音よりも光の方が速度が速いので、光ってから音が鳴るまでの時間が短ければ短いほど近くに雷が落ちるのだと習った。停電するほどだからきっと校舎のすぐ側に落ちたのだろう。雷とともに窓ガラスに叩きつける雨もより一層激しくなった。
何人かの女子が悲鳴をあげ、教室が一斉に騒がしくなった。授業どころじゃなくなった先生は、隣の教室から飛び出してきた先生と職員会議に行き、一時自習となった。お昼だというのに薄暗い構内で自習もできやしないけれども。もちろんこの時間は皆席を移動して親しい人とおしゃべりタイムへ変わる。
僕はと言うと、今日の練習は室内での練習だなあなんてぼんやり考えていた。少し離れた席にいる降谷くんもきっと同じことを考えてるに違いない。そう思って様子を伺うと、彼は薄暗いのをいいことに机に突っ伏してすやすやと眠っていた。実にマイペースな彼らしい行動だ。
春ちゃんはどうしているのだろうか。
騒然としている教室の中で彼女は窓にぴたりと張り付いて空の様子をじっと見つめていた。
「雷怖くないの?」
言った瞬間に、再びびかりと光が点滅して地を穿つような音を立てて雷が落ちた。驚いて肩が跳ね上がる。お腹の底にビリビリと響くような雷鳴は教室中を騒がせた。そんな中でも、彼女は目を大きく見開いて食いつくように窓の外を見ている。まるで小さな子が電車の中から一生懸命窓の外の景色を物珍しげに見ているようなキラキラとした純粋な眼差しで見ているものだから、思わず笑ってしまった。そんな僕に気づいた春ちゃんも、つられるようにして笑った。
「怖くないよ。むしろちょっと興奮するかも。あんだけ自ら強い光を発せられるってすごいなって感心しちゃうぐらい」
感心するところが少しずれている気もするけれど、それは今に始まった話ではない。
「ほら、なんかイレギュラーなことが起こるとちょっとドキドキするの。もちろん、大きな地震とか、人に物凄い影響を及ぼすようなものは別だよ」
「うん、それはちょっとわかるかも」
「中学校の時あったのがね、授業中に学校のグラウンドにイノシシが走ってます、なので生徒の皆さんは校内から出ないようにっていう放送があってすごいワクワクした」
「それは教室からグラウンドを見たくなるね」
「うん、みんなでグラウンド見て、必死にイノシシを追い出す先生陣と駆けつけてくれた警察官の奮闘を夢中で眺めてた」
その頃の彼女を想像する。今よりちょっぴり幼さを残した春ちゃんは、雷を見つめる今の瞳と同じようにキラキラと輝かせて、その一部始終を眺めていたのだろう。
またひとつ、大きな雷が鳴る。もうその音に驚いて肩が震えることもなく、春ちゃんと一緒に教室と同じくらいに薄暗い窓の外を眺めていた。少しだけ苦手だった雷も、彼女のおかげでワクワクするものに変わった。春ちゃんと出会ってから、彼女の独創的な感性にあてられ、僕から見える世界は目まぐるしく変わってきた。その度に目が醒めるような新しい発見があって、更に彼女に惹かれていく。彼女も、僕といることで変わったりするんだろうか。いつの日か、聞いてみたいと思う。
「もう怖くないや」
暗い教室の中でも、どこか明るい雰囲気をまとった彼女は「でしょ?」と悪戯を成功させた子供のように笑った。