21 左きき
右手で私の中を弄る。左手を使ってよ、痛い、やだ、とどれだけ抗議をしても眉を下げて困ったように笑うだけ。いつの間にそんな笑い方を覚えたのか知らないけれども、昔はもっと何も知らない純真無垢な笑い方をしていた気がする。その時はまだキスの味も知らなかったというのに、大人になってそれ以上のことを平気でするようになってしまった。
「春、気持ちいい?」
熱い息を吐き出しながらすがるようにそう言う鳴の声とともに不器用な右手に翻弄される。だらしなく開いた口からは情けないことに息とも叫び声ともつかぬ声が漏れ出るだけだったので、鳴の問いかけにはこくりと頷くだけだ。
とても繊細ですぐに壊れてしまいそうな儚い色を映し出し、守ってあげたいと愛しくなる左手がとても好きだ。けれども、わたしをきもちよくさせようと不器用に肌の上や内側を這う右手もなんだかんだいいつつ愛しくて仕方ないのである。ああ、そっか。そんなわたしの矛盾を知っているから、困ったように笑うのね。
これ以上あなたの好きなところを増やさないでほしいのに、増えていくばかりだ。わたしばっかりが好きみたいでときどきイヤになるから。