99 坂道
あ、白だ。
あまりにもまぶしい白に声が漏れる。その瞬間、ずっと前を歩いていた彼女がひらめくスカートを勢いよく押さえつけたけれども、その行為は無駄な動きでしかなかった。時既に遅しってこういうときに使うんだな、と実感を込めて言ったら、ものすごい形相で成瀬はおれを睨みつけた。
「見たの」
普段綺麗な顔が醜く歪んでいる。その様は見ていてとても新鮮だった。パチンと頭の中で新しい何かが目覚める感じ。彼女の顔をとくと眺めながら素直に答える。
「今のは不可抗力ってやつだろ、言いもん見れたわ」
目尻を険しく吊り上げて吐き捨てるように成瀬は言った。
「バカなの?」
坂の上から蔑んだ二つの瞳がまっすぐ自分を見ている。それを認識したら、背中の下の方から首まで熱の籠った快感がぞくぞくと這い上がっていく。これはマズイ。
「やべえ、めっちゃ興奮した。成瀬のパンツよりも、成瀬に蔑まれる方が興奮するらしい」
「いっぺん死んだほうがいいよ」
ふいに開いたパンドラの箱