51 にらめっこ
鏡の中の忌々しい自分を撃つ。激しい音をたてながら、わたしの顔がバラバラと飛び散った。銃口から出る紫煙が、割れたガラスに映る歪んだ顔を更に歪ませた。
さて、この割れた鏡をどうしようかと思案していると、
「君、いつもこんなことしてるの」
いつの間にか後ろに立っていた雲雀さんが呆れたように言った。無駄なことだと言外に匂わせている。
「まさか」
肩を竦めて鏡越しに雲雀さんへ微笑んだ。割れた鏡の中に映り込んでいる彼はわたしに比べてひどく美しく見えた。
「ふうん」
「なんですか、その含みのある相槌は」
振り向くと、パキリ、足元に散らばったガラスの破片の音が小さく響いた。
雲雀さんは無表情のまま、
「君さ、嘘下手だよね。昔から」
口をへの字に曲げた。
「そんなこと云うの雲雀さんぐらいですよ」
「ま、小動物を毎回撃ち殺しながら生きるのも君の勝手だよ。心理的にだけれど」
雲雀さんはふんと鼻を鳴らして、行くよ、と歩いて行く。本当は何もかも見透かしているくせに、肝心なことは何も云わない。そんな彼に対してわたしは深い溜め息を一つ落として、その後をついて行く。
バラバラに散った鏡を踏み締め、今日も自分を殺し、人を殺す。
パキリ。パキリ。足元で鳴る音は、わたしの心が壊れていく音なのかもしれない。