63 飲みかけ
「飲むか?」
首を傾げながらそう手渡されたのはぐんぐんヨーグルト。影山くんがいつも好んで飲んでいるものだ。
「えっと、これ、飲んでいいの?」
問うと、お前は一体何を言っているんだという目でわたしを見た。
「飲みたそうに、してたから」
どうやらわたしが物欲しそうに飲み物を見ているように思ったらしい。彼は不機嫌そうに眉を寄せ、「悪かったな。無理矢理飲ませようとしたみたいで」とわたしの手から奪い取るようにしてぐんぐんヨーグルトは再び影山くんの手の中に戻っていった。それからわざとらしくわたしを視界に入れないようにぐんぐんヨーグルトを飲む。ずるずるとストローを通して白い液体が影山くんの口の中へと流れ込んでいく。その度に喉仏が上下に動くのをわたしは見ていた。
「飲みたいなあ」
影山くんはびっくりしたようにわたしを見た。それから視線をわたしと飲み物との間を何度も行き来させた後、ボソッと言った。
「やる」
そっぽを向いて渡されたのは飲みかけのぐんぐんヨーグルト。顔は見えない。だけど耳が真っ赤だよ、影山くん。今度はしっかりと受け取った。
「ありがと」
噛まれて平べったくなったストローを唇で喰む。細い隙間から、吸い上げる。ちゅるちゅる。あのね、わたしも影山くんと一緒で、顔が真っ赤な自覚があるよ。これ、間接キスだね。