あの星で始まる


「それでね、」
「ん」

鉄と鉄のこすれる音を奏でながら揺れる私の座っているブランコは、そのうち私が足をつけなくても揺れるようになっていた。私の話を聞いているようで頭の中では違う事を考えている南沢君は私が座っているブランコが揺れている事にも気付いていないんでしょう。

人の話をまるでちゃんと聞いているかのように聞き流す事が得意な南沢君に、女の子がたくさん寄ってくるのがなんとなく分かる気がする。だって私もその1人なんだと思うから。なんでも知ったふりして、全部分かろうとして適当に頷いている、相手を全て理解するなんて不可能なのにね。

「なぁなまえ...なんで俺たちさ、付き合ってるんだろうな」
「両思いだからじゃない?」

ふいに南沢君の口から零れた疑問を拾い上げて返すと、南沢君はふぅん、とだけ呟いてまた視線を地面に落とす。理由なんてあるわけないじゃん、私だって未だになんで南沢君が好きなのか分からない、とでも言ってみようかと口を開いたけど、少し考えてからその口を閉じる。分からないなら自分で探しにいくしかない。

「私はさ、南沢君のその...色々謎なところが魅力なんじゃないかと思うんだよね」
「は?なんだそれ...全部さらけ出してる奴なんていないだろ」
「まぁ確かに、そうだね」

違う意味だったんだけどな、と呟いてももう南沢君は聞いていない様子。私は南沢君の弱いところも汚いところも全部受け止めるつもりだよ、って言いたかったんだけどな。泣いてる私に手を差し伸べてくれたのは南沢君だし、2人で分け合えば楽になるって教えてくれたのも南沢君だったから、根はいい人なんだと思う。

ギィ、と気味の悪い音を立てて止まるブランコは、私が乗っているものではなく、南沢君が乗っているブランコから出た音だった。相変わらず私が乗っている方も変な音を出しているけど。

「南沢君は、なんで私と付き合おうと思ったの?他にもっと可愛い子いたじゃない」
「知らない。その質問全部お前にも返すわ」
「返されると困るな...そういえば私も分からない」

南沢君は私のどこが好きなのか、どの部分が私なのか、自分の中でぐるぐると考えても答えは出ないと分かっているのにたまにそんな事を考えてしまう事がある。もし南沢君が一部だけを好きだと言ったら私はその部分だけを残して消えた方がいいのかな、とか。再びそんな事を考え出すと、私の乗っているブランコも自然に私の足によって止められて、気味の悪い音が耳に響く。

空を仰ぐと空はもう暗くなっていて、星もいくつか浮かんでいた。再びブランコをこぎながら星を指でなぞる。するとその行為に気付いたのか、やっと南沢君が顔をあげて私の指が動くのに着いてくるように不思議な色をした目を動かす。

「星座ってさ、よく分からない形してるよね」
「そうだな。まぁ、ただの線と点だけだしな」
「無理矢理やった感じがあるよね」
「そうだな」

はは、と2人で声をあげて笑うと、南沢君の長いまつげも揺れて、改めて整った顔なんだと思った。まるで私たちみたいだね、と笑いかけると、南沢君は目を大きく開いて何度も瞬きを繰り返している。結局私たちは誰かの愛が欲しくて付き合ってるだけなのかもしれない。

「改めてさ、付き合う?」
「え?...どういう事」
「最初は俺も遊びだったしさ...今は違くなったから、改めて」

次は私が目を開いて瞬きを繰り返す。さっき考えていた事が顔に出ていたのかな、言葉にする事ができなかった私には都合が良かった。そういえば付き合っている、と言っても好きだとか愛してるだとかキスしたりだとかはしなかったし、言わなかった気がする。そういえば、私も最初は女の子をたくさんたぶらかしている人がどんな人なのか確かめたくて付き合ったんだっけ、と片隅にある記憶を引っ張り出してきて思い返す。

「うん、改めて」
「決まり、か」
「改めて彼女としてよろしく」
「ん」

さっきまで星を繋いでいた私の手と南沢君の手は重なって、2人の間にぶら下がる。ブランコから降りると、また気味の悪い音が聞こえてくるけど今はもうあまり気にはならない。

あの星で始まる




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