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「あ……」
百田くんとばったり鉢合わせて、気まずい空気が流れる。そんな空気を払拭するように百田くんがいつもより大きな声を出した。

「あー、名字。まだ探してんのか……あいつのこと」
あいつとは王馬くんのことだ。私がコクリとうなずくと百田くんはそうか……と呟き、驚くことを告げた。

「王馬は格納庫にいる」

「え……」
どうして知っているのかと聞く前に百田くんは説明を始めた。
「あいつ本人が、オレが一人で来るなら話してやってもいいって言ったんだ。なら行くしかないだろ? 名字も心配せずにあとは俺に任せておけ! 大丈夫だ! オレは宇宙に轟く百田解斗だからな!」
王馬くんが何をしようとしているのかはさっぱりだがこれも王馬くんの作戦の内なら黙って見過ごした方がいいのだろうか。
わからない。私は、どうしたらいいのだろう。
でも、王馬くんの邪魔はしたくない。


私は百田くんのことを黙って見送った。
不安に押し潰されそうで、王馬くんのことが心配でたまらなかったけれど、私はライトのことを探るべきだと考えた。
王馬くんがあんな手を使ってまで残した手がかりなのだから、そちらを優先すべきだと考えたのだ。

しかし先刻見つけた隠し部屋以外に、首謀者に繋がる手がかりは見つけられなかった。
ただ時間だけが過ぎていき、いつの間にか夜時間になっていた。



「王馬くんいますか?」
王馬くんが心配だった私は格納庫に来ていた。
シャッターの前から呼びかけるも応答はない。やっぱりもう部屋に戻っているのかと思って引き返そうとした時、ルーちゃんが私の手から飛び降りた。そのままシャッターへと走る。
「ルーちゃん! あんまり近づいたら警報装置が……!」
しかしルーちゃんがシャッターの手前まで行っても警報装置は作動しなかった。ルーちゃんくらいの大きさなら作動しないのだろうか。

ルーちゃんはシャッターの前で鼻をヒクつかせている。格納庫の中から何かにおいがするのだろう。

「王馬くん!」
再び大声で彼の名前を叫んでもやはり返事はない。



首をひねってばかりでは先に進まない。そう思った私は王馬くんの部屋に戻った。しかしそこにも彼の姿はなかった。

彼が自室にいないとなるとやはりまだ格納庫の中にいる可能性が高い。でも声をかけても開けてくれないしどうしたものか。とりあえずエレクトハンマーだけでも持って戻ろうか。
そう考えた私はエレクトハンマーを持って急いで格納庫へ戻った。

ルーちゃんはシャッターの前で待っていた。私は警報装置が作動することを覚悟で操作パネルに近づいたのだが、警報装置は鳴らなかった。
いよいよ怪しい。それにこのパネル、たくさん傷がついている。

変な汗で滑りそうになりながらエレクトハンマーをしっかりと握り、振り下ろした。私の焦る気持ちを逆撫でするようにゆっくりとシャッターが上がっていく。


むせ返るような血のにおいが鼻をついた。


次の瞬間には、プレス機から放射状に飛び散る真っ赤な液体が視界に飛び込んできた。

「ひっ……」
情けなく溢れた声はその真っ赤な血に吸い込まれて消えていく。主張の激しいその血の出処は、もちろんプレス機だろう。

私はエレクトハンマーを取り落としたことにも気づかずにプレス機に近寄っていた。少しはみ出している制服は百田くんのものだ。

「王馬くん……! どこにいるんですか!?」
泣きそうになりながら叫ぶも、ただ虚しく私の声がこだまするだけだ。

血眼になって格納庫の中を探しても王馬くんは見つからない。

「ルーちゃん……王馬くんは……どこにいる……?」
ルーちゃんは"王馬くん"という言葉に反応するものの、手の中からどこかへ行く気配はない。
王馬くんはここにいるよというように、私が握りしめているストールを引っ張り、私を仰ぎ見る。

私は顔を歪ませフルフルと首を振る。
「違うのルーちゃん……。お願い……王馬くんを探して……! お願い……」
込み上げてくるものを抑えきれず、絞り出した声は掠れて消えていく。
一度栓が外れてしまえばそれを制御することなんてできなくて、とめどなく溢れる涙は嗚咽と混じってただただ私を苦しめる。


どれくらいそうしていただろう。カラカラに乾いて涙さえ出なくなってしまった私は身体を揺さぶられていることに気がついた。
意識を周りに向けて重い目を上げる。どうやら私に声をかけているのは夢野さんのようだ。

気がついたら、王馬くんと百田くんを除く全員が格納庫に集まっていた。








「それじゃあ議論を再開しようか!」

王馬くんのためにも、私は全力でこの裁判に挑む義務がある。

再び顔を上げた私は、王馬くんの声に続いて口を開いた。
「ずっと疑問だったんですけど、みなさんはどうして格納庫に来たのですか?」
「百田くんが王馬くんに捉まったって、春川さんが教えてくれたんだよ」
「うむ。それでウチらがエレクトボムとエレクトハンマーを持って格納庫に向かった訳じゃな。あの時のハルマキは怒りで全身から青い炎が吹き出したような……」
「……殺されたいの?」
「ままままさに、このような鬼の形相で……ウ、ウチはビビってなどおらん」
「夢野さん、地味にそこまでにしておいた方がいいと思うよ」
「そう言えば春川さんはどうしてエレクトボムを持っていたのですか? あれは王馬くんが独占していたはずですが」
「私があいつから盗んだんだよ」
「それに関してなんだけど……」
私たちの会話に最原くんが口を挟む。躊躇うような口ぶりだけれど、眉間にシワを寄せていてその目つきは厳しい。
「春川さんはエレクトボムとエレクトハンマーを持っていたのに、どうして僕たちを呼んでから百田くんを助けに行ったの?」
「…………」
「もしかして、モノクマを囲んでいたエグイサルの横に捨てられていたエレクトハンマーって春川さんのものじゃない?」
最原くんの容赦のない追及が春川さんを捉える。

確かに変だ。エレクトボムもエレクトハンマーも持っているなら単身で乗り込めばいい。百田くんを想う強い気持ちがあって、体力面でも問題ない春川さんならそれくらいはしただろう。
それならなぜそうしなかったのか?

黙秘を続ける春川さんは、微かに怒っているような気がした。



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