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裁判の翌朝、名字さんと王馬くんは姿を表さなかった。
王馬くんは何をしているのかわからないけど、名字さんはきっと部屋にいる。

何度も部屋に行こうか迷った。けれど、僕が行ってもなんと声をかければいいのかわからない、一人になりたい気分かもしれないと、行動に移せずにいた。

百田くんも僕を避けている。
気持ちはわかるけど、真実を見つけなければみんなが犠牲になっていたんだ。
それとも真実を見つけること自体が間違っていたのか?


気がつけば僕の足は、名字さんの研究教室に向かっていた。

"しんどくなった時にこうして動物と触れ合うことで心が暖かくなるんですよ"

これは、僕が初めての学級裁判で落ち込んでいたときの名字さんの言葉だ。彼女の励ましが素直に嬉しく、力をもらえたことを思い出す。



教室の扉を開けて、僕の目に入ったものは、動物に囲まれる儚い少女の姿だった。

名字さんは突然開いた扉に驚いて顔を上げる。その目は涙で潤んでいたり、赤く腫れているということはなかった。
「名字さん……ここにいたんだね」
彼女はゆっくりと顔を伏せる。
僕としたことがこんなことに気がつかなかったなんて。ここは彼女の癒やしの場だ。僕が来る前に彼女が来ていることくらい容易に想像できたはずなのに。

「突然来てごめん……」
名字さんの一人きりの時間を邪魔すると思った僕は教室を出ようとした。

「最原くん……」

しかし、あまりにも弱々しく消えてしまいそうな声が僕を引き止めた。


僕は吸い寄せられるように名字さんの隣に腰を降ろす。
その横で名字さんはうさぎを膝に抱えて優しく撫る。
僕も動物と触れ合おうと思ってこの教室に来たはずなのに、無遠慮にもじっと彼女の動作に見入ってしまった。名字さんが愛情を込めて動物と接している姿を見ているだけで癒やされる。

昨日までの出来事や、僕たちが置かれている状況なんて忘れてしまいそうになるくらい、静かで穏やかな時間が流れている。


不意に名字さんの頭が倒れて僕の肩に触れた。程よい重みが肩にのる。
突然のことに驚きながらも、この角度から見ると名字さんの長いまつげが強調されてより可憐に見えるな……などと下劣にも思ってしまった。彼女の爽やかな甘い香りが鼻腔をくすぐる。

僕は優しく彼女の頭を撫でた。次第に心が暖かくなってくる。今日の名字さんは普段より小さく儚く見える。

思わず名字さんの肩に腕が伸びる。

しかし、既のところで思いとどまった。
今、僕の本能に任せて行動して彼女を傷つけるのは本意ではない。
僕が今名字さんを抱きしめて何になる。
名字さんを本当の意味で元気づけられるのは……僕じゃない。

教室に入った時の名字さんの姿を思い出す。
涙を流さない姿は、泣き喚いているよりも痛々しい。

「名字さん、もしよかったら明日また顔を見せてほしいな。みんなも心配してるよ」

名字さんが眠っているのか起きているのか定かではない。僕の声が届いているのかはわからないけど、彼女が小さく頷いたように感じた。




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