30

「こらー! しゃきっとせんか!」
学級裁判の翌朝のどんよりと重い空気が漂う食堂に夢野さんの声が響いた。

「いつまでも落ち込んでいるだけでは死んだ連中が浮かばれん……だから、あやつらの死を無駄にせんためにも、ウチは前向きに生きる事を決意したんじゃー……!」
最後の方はぜえぜえと息をつきながら意気込みを話す。

意外な人物の一喝ほどよく効くものだ。
夢野さんを変えたのは、哀しくも彼女の側にいた仲間の死だ。アンジーさんと茶柱さんは真宮寺くんにころされてしまった。そして彼も……。
しかしその悲しみに囚われることなく前を向く夢野さんの姿に心を打たれた。


彼女のおかげで徐々に空気が晴れていく食堂に、いつものようにモノクマが現れた。新エリア開放のためのアイテムと、今回はそれだけではなく、謎の動機カードキーも渡された。

「……これ、どうする?」
最原くんが渡されたカードキーをつまみ上げる。
「使わない方がいいでしょう。モノクマからの動機なんて見ない方がいいに決まっています」
「そうじゃな。あやつの手のひらの上で転がされるだけじゃ」
満場一致でカードキーは使わないということになるかと思われたのだが、一人だけは違った。

「誰もいらないんだったらそのカードキーはオレが貰うね!」
「え……?」
「どんな動機かワクワクしちゃうなあ!」
王馬くんは軽い身のこなしでカードキーを奪うと食堂を出て行った。

「待て! 王馬!」
そのすぐあとを追いかけるように百田くんも食堂を飛び出す。残された私達はどうすることもできずただ見ているしかなかった。
私は彼の振る舞いに違和感を感じた。


「……どうしようか? 僕も王馬くんを探しに行った方が……」
「最原くんはそのアイテムを使って新しいエリアを開放してください。あなたの、探偵の力が必要です」
キーボくんの言葉を聞いて、最原くんは考え込むようにアイテムを見つめる。

「……私もキーボくんに賛成です。それに、王馬くんのことは私に少し考えがあるので……」
おずおずと名乗りを上げる私に視線が集まる。
「……ふむ、王馬と言えば名字、名字と言えば王馬じゃからな」
「それに何か考えがあるみたいだし、ここは名字さんに任せた方がいいかな? 私たちも一応探してはみるけど」
「そんなに期待しないでくださいね……」

各々が食堂を出ていく中、最原くんだけが黙って私のことを見ていた。心配そうに眉を下げている。
私は最原くんの不安を取り除くように努めて明るい声を出した。

「大丈夫ですよ最原くん! 無茶はしません。私もトラブルはもう懲り懲りですからね」
「……本当に無茶はしない?」
「はい。今回は、本当に」
私はそう言って苦笑する。最原くんはそれでも不安を拭いきれていないような表情で私を見ている。

「ルーちゃんに協力してもらうんですよ」
「……どういうこと?」
私は最原くんに、ルーちゃんが王馬くんのにおいを辿ることができるかもしれないと説明した。最原くんは説明を聞き終えると、目を大きくして感嘆の声を漏らした。
「すごいね。さすが名字さんだ」
「すごいのはこの子ですよ。ルーちゃんは本当に賢いんです。最原くんも比較的長く一緒にいますから、もしかしたら同じことができるかもしれませんね」

ほらほら最原くんですよ〜と最原くんにルーちゃんを近づける。ルーちゃんはくんくんと鼻を動かして最原くんのにおいを嗅いだ。
「そういうことなら大丈夫かな…この件に関しては名字さんに任せるよ。でも、いつでも頼ってくれていいからね。僕にできる範囲で協力するよ」
最原くんはようやく安心したように笑顔をこぼした。



流石に検討もつかないとなると難しいなぁ……。
ルーちゃんが王馬くんを探している間、私も探し回っているのだが苦戦を強いられていた。

中庭をうろついてひとまず校舎に戻ろうとした時、ルーちゃんが戻ってきた。
「見つけたの?」
ルーちゃんはついてこいとアピールし、私を裏庭まで導いた。


「王馬くん……」
小さな声で名前を呼ぶと、彼は緩慢な動きで振り向いた。




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