29

翌朝、またあの不吉なアナウンスが流れた。
何度聞いても顔から血の気が引き、足がすくんでしまう。

しかし嫌でもそこに行かなければならない。
真っ白な頭で、ひたすら走って指定された教室まで辿り着いた。



そこに横たわっていたのは変わり果てた姿のアンジーさんだった。

昨日まで、王馬くんが生徒会に入ったり、夢野さんを生徒会から連れ戻す作戦を考えたり、大変だけどそれなりに楽しい時間を過ごしていたのに。

そうだ、私がいる世界はこういう世界だったと、非道な現実に引き戻された。


彼女の死とこれからやらなければならないことに頭を抱えていたら、真宮寺くんがかごのこの降霊術をやって彼女の霊を呼び出そうと言い出した。

「死者の蘇りの次は降霊術? まさか、本気で言ってるんじゃないよね?」
今回ばかりは王馬くんの意見に賛成だ。死者を呼び出すなんて正気ではない。
「ククク……モノクマの死者の蘇りなんかと一緒にしないで欲しいなァ……降霊術は実際に起こり得る事象なんだヨ。現に僕自身だって何度も成功させているんだからサ……」
「オカルトにはオカルトで対抗ってわけだね。うんっオレ協力するよ! 捜査なんてもう飽きちゃったし!」
「え……」
「……ウチも協力するぞ」
「えっ!? 夢野さんまで!?」
夢野さんの静かで固い声に悲しみや決意が感じられた。そして、アンジーさんともう一度話したいという純粋な想い。

初めは動揺を見せた茶柱さんだったが、すぐに自身も協力する意志を見せた。降霊術というわけのわからないものに参加する夢野さんを心配してのことだが、それだけじゃない気がする。夢野さんがちゃんとアンジーさんと話せるように手助けしたいのではないだろうか。優しく一途な茶柱さんらしい行動だ。

「さて、これで参加者は僕を含めて4人になったけど……かごのこの降霊術をやるには5人必要なんだ」
それを聞いて、うーんと考えるようにあたりを見渡す王馬くんと目があってしまった。とっさに目をそらしたが、嫌な予感がする。

「名字ちゃんがとってもやりたそうな顔をしてるよ!」
「してません!」
ほら、やっぱりそうきた!私はこれでもかというくらいに首を振って否定する。
「なーんて嘘だよ。名字ちゃんって何かとトラブルメーカーだし大人しくしててよ」
「言われなくても参加しませんよ……」
確かに一人で空振ってることもあるけど、王馬くんにだけは言われたくない。


結局キーボくんが強制的に参加させられることになり、捜査が始まった。


暗い廊下に出ることもできず、かと言って死体がある部屋で落ち着けるわけもなくそわそわとしていると、また、例の頭痛が来た。

ここ最近頻度が増えている。前回の頭痛は2日前だった。しかも回数を重ねるごとに痛さも増しているような…

私は立っていられなくなり教室の隅で頭を押さえてうずくまった。

「名字、大丈夫なの? また頭痛?」
頭上からの声に顔を上げると、春川さんが私の顔を覗き込んでいた。
「はい……そのうち治るので大丈夫です。すみません捜査に参加できなくて……」
「別に謝らなくてもいいけど」
素っ気ない態度だけど私を心配してくれていることが伝わってくる。

「そう言えば最原くんと一緒に捜査していたのではないですか?」
「ああ、最原ならキーボに変わって降霊術に参加してるよ。探偵として色々なことを見届けておくべきだし、キーボよりは適任なんじゃない」
「……そうですね。春川さんも探偵としての最原くんを信頼しているんですね」
嬉しくなって軽く微笑むと、春川さんに冷たい視線を向けられた。

春川さんと捜査の進展について話し合っているうちに頭痛が治まってきた。
そろそろ捜査に戻ろうと腰を上げた時、予想もしていなかったアナウンスが鳴った。



その放送の内容に愕然とし、教室にいた誰もが固まった。

真っ先に動き出した春川さんに続くようにみんなが走り出す。


降霊術中に……誰が……。


手足がどうしようもなく震えた。
真宮寺くん、夢野さん、茶柱さん、最原くん、王馬くん
一人一人の顔が浮かんでくる。

恐る恐る教室を覗き込むと、茶柱さんが真ん中でうずくまるようにして横たわっているのが見えた。
呆然と茶柱さんに寄り添う夢野さんがいつも以上に小さく見える。


最原くんと春川さんの会話から、降霊術をしていた当事者たちも何が起こったのか理解していないとわかった。
この4人の中に犯人が……?
信じられないけど、そうとしか考えられない。


各々が捜査し始める中、私は彼の姿を探した。

死体発見アナウンスを聞いて、初めて彼の死を強く意識した瞬間に泣きそうになった。

死にそうにない彼でも、ふとしたことで事件や事故に巻き込まれてしまうことだってあるのだと思わされた。
そう考えると言いようのない焦燥と恐怖に襲われたのだ。


一度アンジーさんの教室に戻ったり、真宮寺くんの教室に行ってみたが、彼の姿はなかった。

もしかして入れ違いになったのかもしれないと再び降霊術の部屋に戻ろうと廊下を足早に歩いていると、廊下の真ん中で探し人の姿を見つけた。


床に倒れた姿で。


「王馬くん……!!」
悲鳴にも近い声を上げて駆け寄る。よく見ると頭から出血しているようだ。

私が近づくと王馬くんは顔を上げて力なく笑った。
「にしし……ビックリした? ……死んじゃってると思った?」

王馬くんの透き通った白い肌はいつも以上に青白く、そこに伝う真っ赤な血が嫌でも目立つ。

私が言葉も発せず王馬くんの顔を凝視していると、私の悲鳴を聞いた最原くんと春川さんが駆けつけてくれた。
「どうしたの!? 悲鳴が聞こえたけど……」
慌てた様子の二人は廊下の真ん中に座り込んだ私達にどうしたのかと尋ねるが、こっちが聞きたい。

「ちょっと気になることがあって隣の空き部屋を調べてたんだけどさ……そ、そうしたら急に……」
そこで王馬くんは言葉を切った。出血多量で意識を飛ばしかけている。
「気を失うなら全部話し終わった後にして」
春川さんの容赦ない言葉に反応して王馬くんは再び口を開いた。
「あ、あぁ……ごめんごめん……そうしたら急に床板を踏み抜いちゃって……なんか……床板を支える横木がなくなってたみたいでさ……あはは……ついてないよねー」

二人に話し終えた王馬くんは青白い顔で力なく笑う。再び私に目を向けると彼は驚いたように目を見開いた。

「あは……濡れ雑巾みたいな顔しちゃって、ブサイクだなぁ……」
王馬くんは私の顔を見て微かに笑った。
「王馬くんこそ地の底から這い上がってきたような顔色をして……ひどいものですよ……」
王馬くんは私の顔に手を添えて、親指で頬をなでた。
なでた、というよりも私の頬につたうものを拭った。


捜査終了のアナウンスが鳴る。
意識を飛ばしかけながらフラフラと歩く王馬くんに寄り添うようにして裁判場へと向かった。




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